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「うーん、もうちょっと明るい赤がいいのよね⋯⋯」
明るい赤はジョーの髪色だ。
店主が次々に赤い布を出して来るが、どうにも理想の色がない。
「黄色混じりの赤みたいな色ないのかしら⋯⋯」
店主も困惑してる横で、店員の一人が思い出したように奥から布を持って来る。
「この色はどうでしょう?」
少しだけ黄色が混じったような明るい赤。
「いいじゃない!理想だわ!これも頂戴」
店主と店員は顔を見合わせる。
「実はこれ、残りがこれだけしかないんです」
そう言って広げた大きさは1メートルもない。
「問題ないわ。その量で充分よ」
髪に使うのだから、そんなにあっても仕方ない。
「はぁ、分かりました」
次に深い臙脂に近い赤を選ぶ。これは新譜の衣装に使う。
ついでに葵衣用の服の布も選ぶ。
葵衣の好きな甘辛ミックスを赤を中心に、ピンク、黒などで表現する。
「よし、赤はこんなもんね」
⋯⋯赤は?
「次は青をあるだけ用意して」
ーーはぁ!?
驚きに固まる店主たちに、アンナは容赦なく告げる。
「青の次は白、白の次は緑、緑の次は紫ね」
はあぁぁぁぁーーっ!?
大変な客を招いてしまったと、後に店主は語る。
すっかり陽が傾きかけた頃、疲れた様子で走る馬車が一台。
結局布屋では4時間以上滞在した。
だが納得していないのがただ一人。
アンナだ。
「どうして青い布があんなにも少ないのよ!」
他は大体揃ったのだが、青だけが極端に少なくて次回となったのだ。
綺麗な青で痛バと、祭壇を作ろうとしたのに!
青でも薄い青や水色はあるのだが、ハッキリした青が数少なかったのだ。
そしてそれらは当然アンナの目に敵うものではなかった。
青は青でも深い矢車菊のような、サファイアのような青がいいのだ。
こちらの世界の染め技術は分からないが、日本では多種多様な色の布が作られていた。
「もう、ナオのグッズが作れないじゃないの!」
推し活がまさかの行き詰まりである。
「まぁ、取り敢えずは先にメンバーの推しぬいを作ろうかな⋯⋯」
推しぬい用の布は取り敢えず揃った。
あとは装飾だ。
「モールとか肩章とかチェーンとかビーズって、この世界にもあるのかしら?」
なければ作るしかないのだが、流石にチェーンやビーズは難しい。
「これって小物?それともアクセサリー?」
うーん、と首を捻りつつ今日は帰宅の途に着くのであった。
そして屋敷の玄関に着いた時、さらりとアンナは告げた。
「明日は小物と雑貨の店に行くから」
その言葉に全員固まった。
また今日みたいな買い物をーー?
必死に表情は隠したものの、全員と背中が語っていた。