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アドニアスに町へ行くと伝えたら、困惑混じりの渋い対応をされた。
「それは屋敷に人を呼ぶことで済ませられないのですか?」
「済ませられないから言ってるのだけど?」
なんで推しのグッズを作るのに妥協しなきゃならんのだ?
あの衣装は軍服のようなスタイルで、細かい箇所にかなりの装飾が必要なのだ。
全員分作るのだから、それぞれの色や装飾なんかも必要だ。
「アドニアスじゃ埒があかないなら、勝手にするわね」
片手を挙げて踵を返すと、焦ったようにアドニアスが止めに入る。
「分かりましたから。準備を致しますので、お部屋で少しお待ち下さい」
ーーやれるなら、最初の時点でやれよ。
アンナは呆れたように鼻を鳴らすと、自室へと戻った。
一方アドニアスはアンナローズの豹変に付いていけずにいる。
アンナローズは大人しく静かな子供だった。
どこか淡々として、表情も暗く、あまり喋ることもない。子供としては色々欠けているのだろうが、こちらの手を煩わせることがない子だった。
それがどうしてこうなったのか⋯⋯。
ついこの間熱を出して寝込んでいたと思ったら、まるで別人のようになっていた。
今までになかった冷徹な眼差しと判断、そして厨房での行動。
これまで一切の片麟さえ見せなかったというのに⋯⋯。
何か空恐ろしい物を感じつつ、アドニアスはアンナローズの指示通りに動くのだった。
玄関前に停められた馬車の横には四人の護衛と侍女一人。
「護衛は二人くらいでいいわ、あちこち行く予定はないし、抜け出すような馬鹿な真似もしないのだから」
「⋯⋯しかし」
「私が愚かな無茶をするような幼子に見えるのかしら?」
「いえ⋯⋯」
「もしそれで拐かされたとしても、それは全面的にお父様の責任なのだから、貴方達が悔いるものでもないわ」
「⋯⋯は?」
「だってここの領主はお父様なのだから、それを排除出来なかった責任はお父様にある訳でしょう?」
確かにそうだ。
「まぁ、それで死ぬことにでもなったら、この世界から淘汰されたのだと思って諦めるわ」
5歳の言葉とは思えず、ポカンと絶句する護衛ら。
確かに前と変わられたが、突き抜け過ぎて諦めきった感じがひしひしと伝わる。
「もし原因を聞かれたのなら、こう答えてあげればいいのよ」
『マトモに領主しなかったテメェの責任だろ!』
「ってね」
いや⋯⋯いやいやいや!
無理です!不敬が過ぎます!
何ですかその極論!
「要は民から好かれるのも嫌われるのも、その領主次第ってことよ」
確かにそうですけどもーー!
固まる護衛らを無視して、アンナは誰の手も借りることなく、馬車へと乗り込んだ。
「ほら、行くわよ。時間は無限ではないのだから」
えーーっ!?