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カラッカラに乾いたタンポポの根を回収して、ただいまゴリゴリと砕いております。
乾いた合図は手でポキっと折れること。
適当な麻袋に入れて、まずは麺棒のようなもので叩いていく。
ガンゴンと力いっぱい叩くのって、ストレス解消にいいわ〜。
前世ではストレス溜まると、葵衣とカラオケで呑んで騒いでとはしゃぎまくったりしたなぁ⋯⋯。
葵衣の都合がつかなかった時は、パンを作ってストレス解消してたっけ。
この世界のパンはそこそこ美味しいので、発酵技術はあるのだと思う。
チーズはあるし、乳製品でみかけてないのはヨーグルトくらいだ。
「ヨーグルト欲しいけど、菌があるか分からないのよね⋯⋯」
健康思考のイケてる女子の味方ヨーグルト!
「ダイエットにもいいんだけどな〜」
小さく呟いたアンナの声を耳ざとく拾ったのは、見習い娘達。
「お嬢様、何がダイエットにいいのですか!?」
声に顔を上げると、全員が睨む勢いでアンナを見ている。
「おぉぅ⋯⋯」
この世界での女子も前世と変わらないらしい。
「ヨーグルトっていう乳製品よ。腸内ーー要するにお腹の中を綺麗にしてくれて、便秘にもいいからダイエット効果もあるのよ。お腹が綺麗になれば、肌も綺麗になるの」
「よおぐると?」
やっぱりないかー。
「乳製品ってチーズとは違うんですか?」
「うーん、牛乳とチーズの間?ドロッとして酸味があるのよ」
「⋯⋯それ美味しいんですか?」
「見た目はともかく、美味しいわよ。少し酸味があるけど」
ーーそれ腐ってんじゃね?
と、見習い娘達の顔が言っている。
「腐敗ではなく発酵よ。パンだって発酵させて膨らんでいるんだからね?」
チーズやお酢やお酒だって発酵だ。
「発酵は人類の叡智なのよ」
発酵食材は健康食なのだ。
見習い娘達は首を傾げて、心底不思議そうにしている。
「そうなんですか?」
「お嬢様は頭がいいですね〜」
この世界での私は大層利発で達観したお子様らしい。
まぁ、見た目は子供。中身は大人だしね。
なんか眼鏡姿の少年探偵が頭をよぎったけど、軽く無視して先へ進む。
「根っこを細かく砕いたら、フライパンで乾煎りするわよ」
ある程度細かくなったタンポポの根をフライパンへ投入。
これを焙煎させたらタンポポコーヒーの出来上がりだ。
「コーヒーは甘い食べ物に合うのよ」
同時進行でクッキーを焼いていく。
煎っていたタンポポの根から少し煙がでて、香ばしい匂いがしてきたら火から下ろす。
「うん、いい感じ」
粗熱が取れたらガーゼのような布でフィルターを作って、そこに粉を入れてお湯を注ぐ。
「煎ってる時は薬草みたいな匂いだったけど、こうなると完全にコーヒーだわね」
「不思議な香りですね」
「でも、いい匂い〜」
「コレに好みで砂糖やミルクを入れて飲むのよ。もちろんそのままでも美味しいわよ」
私の好みは少し薄めのブラックだ。まぁ、気分によってカフェオレにしたりもするが。
「クッキーも焼けたみたいだし、庭園でコーヒーブレイクにしましょうか」
「こおひぃぶれいく?」
「コーヒーを飲む休憩のことよ」
ティーワゴンにコーヒーやクッキーなどを乗せ、みんなで外へと移動する。
見習い娘達全員となると、かなりの大所帯だ。
以前の使用人達に比べれば、言葉や所作は拙いが気持ち的には楽だ。
私のすることに疑問を抱きつつも止めることもないし、迷惑そうな顔もしない。
何人残るか分からないけれど、今はとにかく楽しく学べればいいと思う。




