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ガバリっと起き上がると、そこは見知った場所ではなかった。
「え?どこ?」
今まで住んでいた部屋が5〜6個入りそうな豪奢で広い部屋。
寝ていたベッドの四隅にポールがあり、天蓋付きであることを示していた。
思わず上を見ると宗教画なのか、女神のような人物と色々な花や動物が描かれている。
恐る恐る反対側を見ると、薄いレースのカーテンがかかっていて、今がまだ昼間なのだと教えてくれた。
え?社会人2年目のワンルームなヲタ部屋どこ行った?
きょとりと目を瞬かせた時、襲って来た強烈な頭痛。
「いった⋯⋯!!」
グワングワン襲い来る頭痛の波に、頭を押さえ、ぎゅっと目を瞑ると、目蓋の裏に現れては消える映像。
「な、にこれ⋯⋯」
何人もの人物が浮かんでは消えて行く。
知らないはずなのに、その人の名前が分かる不思議。
そして一番多い人物。
アンナローズ・ラ・フランメイル。
これ⋯⋯ワタシだ。
シャーリーン王国に2つしかない辺境伯。
西のラジエイル辺境伯。
東のフランメイル辺境伯。
そのフランメイル家の第2子で長女のアンナローズ5歳。
アンナローズは孤独な子供だった。
仕事漬けの父親に社交三昧の母親。
兄が一人いるが、そんな両親を見ていたせいなのか、妹に関心も示さない。
両親も兄も共に食事をしたことさえない。
だから、両親の顔さえ曖昧だ。
遊び相手は玩具の人形くらいで、メイド達からも一歩引かれていた。
家畜の親子だって仲良く過ごしているのに、自分には誰もいない。
怪我をしたって、病気で熱を出したって、メイド以外誰も来てくれない。
隣で寝ていた人形をぎゅっと抱きしめて、アンナはポトリと一つ涙を零した。
体の奥底が《淋しい》と嘆いている。
誰かわたしに気付いて。
話しかけて。
抱きしめて、頭を撫でて笑って。
わたしはここにいるーー。
「淋しかったね、アンナローズ」
アンナは涙をグイッと拭った。
「決めた。今日から君は『あおい』よ!」
大好きで大切だった親友。
「葵衣⋯⋯見守っててね」
いつかまた会えると願って。
そして、それを叶えるための力にすると願って。
人形の髪をそっと撫でて、アンナは葵衣を抱いたままベッドから降りる。
トトトと窓辺に寄ると、桟に手をかけ背伸びをして外を見た。そこは広々とした庭が広がっていて、今が盛りと花々が咲き乱れている。
「綺麗なところね」
ーー外面だけは。
後半は心の中に留めておく。
「今日は何をしようかね葵衣」
取り敢えず今はーー。
「お腹空いた⋯⋯」
小さな手でお腹を擦ると、クゥ〜と小さい音が鳴った。