1
「っあ〜〜!!もうっ最高だった!!」
「だよねっ!!あ〜これで明日からまた頑張れる!」
「1年に一度のお楽しみだもの!」
「あ〜このまま夢見心地のまま死にたい!」
「ちょっと止めてよ。来年のライブまで生きて!気持ちは分かるけど!」
一際派手で大きな団扇を振りながら、二人は幸せそうな笑い声を上げた。
「ってか、絶対ジョーこの団扇に気付いたよね!」
「いいなぁ〜手で♡してくれたよねー!ナオはこれ気付かなかったのかなぁ〜?」
団扇には『NAO♡バーンして☆』と指の絵まで付いている。
「ナオは照れ屋さんだからー」
「知ってるけど!ファンサは欲しい!」
ケラケラと明るく笑ったその時、正面から来た酔っ払いの男が、わざとらしく二人に近付き、勢い良く肩をぶつけて来た。
「⋯⋯え?」
グラリと傾いだ体。
今日のためにと新調した靴が仇となった。普段は履かない5センチのヒール。
咄嗟に体勢を立て直すことが出来なかったのだ。
ドサリと倒れ込む体。
「杏奈!!」
親友の叫び声に顔を上げると、眩しいライトの光とクラクションの音。
「葵衣⋯⋯」
親友の名前を口にした瞬間、通り過ぎた大型車。
「いやあぁぁぁっー!!杏奈!杏奈ーっ!!」
朦朧とする意識の中で聞く親友の声。
同じアイドルが好きで仲良くなった親友。
推しは違ったけれど、他の誰よりも一緒にいた。
大好きで大切な親友⋯⋯。
死にたいなんて冗談でも言わなきゃ良かった。もっともっと一緒にライブやイベント行きたかった。
ごめんね。大好き。
「ぁぉぃ⋯⋯」
ーー私の大親友⋯⋯。
掠れる視界が最後に映したものは、踏まれてぐしゃぐしゃになった団扇。
NAOの文字や指のイラスト頑張ったんだけどなぁ⋯⋯。
自然と零れた涙がアスファルトに落ちる瞬間、杏奈の意識は途切れた。
鷹島杏奈
享年23歳
こうして私の人生の幕は下りた。
ーー筈だった。