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第二十九話 バイキングは終わらない




「これ美味しいわね。何枚でもいけちゃいそう」

「何枚でもいけちゃいそう、じゃないよ……心配したんだからね!」

「あはは、ごめんごめん……もぐもぐ」


 プリプリと口を尖らせるユウリに、私は素直に頭を下げる。

 頭を下げながら、ユウリが持ってきてくれたクッキーを口に運ぶのも忘れない。


「でも、本当にびっくりしたよ。まさか倒れるなんて……」

「それは私も思ってるのよ。さすがの私も疲れたみたいね」


 マカロンを頬張りながら、私は神妙に頷いた。

 あのあと、意識を失った私は、ヘイルによって控室へと運ばれたらしい。

 どうしてもやらざるを得ない状況だったとはいえ、慣れないことはするものではないと痛感する。


「ひとまず、大事には至らなかったみたいだけど……無理そうなら、このまま帰ってもいいからね」

「そこまでじゃないから大丈夫。ありがとう、お父様」


 ヘイルの提案を、私はやんわりと断った。

 治癒師の診察によるとただの疲労とのことで、特に重篤な症状は見受けられなかったそうだ。

 実際、自分自身の体感としても、それほど問題がある気はしていない。元気そのものだ。

 それでも、目の前で突然倒れられたユウリやヘイルには心配をかけてしまった。申し訳ない。


 それでも、まだ屋敷に帰る訳にはいかなかった。

 優先度としては低めだが、まだテイスティングしていない料理はたくさん残っている。

 これを食べ逃しては帰るに帰れない。


「……すまない。私がもう少し気を回せていれば」

「もう、それはいいでしょ。私が好きでやったことなんだから」


 ヘイルの悔いるような言葉を、私は雑に聞き流す。

 ユウリを守るのは、別にヘイルに頼まれたからではない。私が勝手にやったことだ。

 そこを間違ってもらっては困る。


「今回のことは、ドルレッサの動向を見落としていた私にも非がある。……それでも、本当はアンにあまり危ない真似はしてほしくはなかった」

「それは……わかっているけれど」

「今回は大丈夫だったけれど、相手が逆上して襲いかかってきてもおかしくないような状況だった。そうなってしまったら、アンではどうすることもできないだろう?」

「む……」


 そこを言われてしまうとぐうの音も出ない。

 今回は人目につく場所だったこともあったせいか素直に引いてくれたが、毎回同じようにいくとは限らない。


「今回みたいなことはこれっきりにして、ちゃんと周りの人に助けを求めるんだよ?」

「……わかりました」


 渋々ながら、私はヘイルの言葉に頷いた。

 けれど、あまり納得はしていない。

 やらなくていい勝負はもちろんやらなくていいと思うが、必ずしもそういう場面ばかりとは限らない。

 どうしても、戦わなければならない場面というのもあるだろう。


 そういう時、怖気付くような女にはなりたくない。

 ヘイルには少し申し訳ない気持ちもあるが、今の私はそういう考えだった。


「ところで、そろそろネル姉様のご挨拶があるんじゃない?」

「そうだね。時間的にもちょうどいい頃合いだ。アンの体調が本当に大丈夫なら、私達も戻るとしようか」


 私の言葉にヘイルがそう提案するが、ユウリはいまだに少し心配そうな顔で、


「アン姉さん、本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。ネル姉様のご挨拶はちゃんと聞いておきたいし」

「……あんまり、無茶はしないでね?」

「もちろん」


 ユウリの言葉に、私は強く頷いた。

 無論、自分の腹の具合くらいは把握できている。

 少し休憩したこともあって、まだまだ全然余裕へっちゃらである。


「さあ、まだまだ私たちのバイキングはこれからよ!」

「ばいきんぐ……?」


 ということで、会場へとつながる扉を開いた私たちは、




「ーーこの僕、ラフォーレ・シュヴァルト・ヴォルジーナは、今この場で、ネルレリア王女殿下との婚約を解消させていただきます!」




 見覚えのある少女が、訳のわからないことを叫んでいるのを目の当たりにするのだった。



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