表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/50

第十七話 スパルタ王子




 結論から言うと、クロス王子はスパルタだった。


「分量が違う! もっと正確に測れ!」

「は、はい!」

「なんだその甘い攪拌は! やる気を出せやる気を!!」

「は、はぃぃ!!」


 私が何かやらかすたびに、めちゃくちゃちゃんとダメ出しされた。


 まず分量。

 私はけっこう適当な性格で、「これくらいでいいんじゃない?」などと思いながらざっくり入れていたが、クロス王子にめちゃくちゃ怒られた。

 思えば、前世では料理こそそれなりに作っていたものの、お菓子作りはしたことがなかった。

 料理であれば、多少量が違っていても、食べられなくなるほど不味くなる、ということはあまりない。

 分量に対しての意識が甘かった、ということだろう。


 加えて、たぶん私はそれなりに味音痴だ。

 「まあまあいけるのでは?」とこれまでユウリたちに振舞ってきたクッキーたちも、あまり出来の良いものではなかったのでは……。

 二人とも優しいから、はっきり不味いとは言えなかったのかもしれない。


 次に混ぜ方。

 これも「これくらいでいいだろ」と思って適当に混ぜていたのだが、どうやら甘いらしい。

 ユウリにも指摘されたが、かなりしっかりと混ぜないと、食感に影響してくるようだ。

 適当な性格が、こんなところにも響いてくるとは……。


「よし……」


 その後の工程には大きな問題はなく、いよいよ焼き上げるところまで来た。

 心なしか、隣に立つクロス王子とユウリも緊張しているように見える。


 オーブンから、おそるおそる鉄板を取り出す。

 香ばしい匂いが鼻を通り抜ける。

 成功の予感があった。


「おお……!」


 綺麗な小麦色に焼けたクッキーが、鉄板に所狭しと並んでいる。

 先日ユウリが作ってくれたものと比べても、ほとんど遜色ない。


「どれどれ」


 皿に出したクッキーを、三人でそれぞれ口に放り込む。


「あ、おいしい」


 噛んだ瞬間、サクサクとした食感と優しい甘みが口の中に広がった。

 変な感じは全然しない。

 最初に作ったものと比べれば全然違う。


「うん、おいしいね!」


 同じようにクッキーを口に入れたユウリも、嬉しそうに舌鼓を打っていた。


「……うん」


 そして、問題のクロス王子。

 彼もしばらくもぐもぐと咀嚼していたが、やがて満足げに頷いた。


「さっき食べたものとは雲泥の差だ。これならスタグレーゼ公爵も喜ぶだろう」

「ほっ。よかったです」


 クロス王子からも太鼓判をもらい、私は安堵の息を吐く。

 もう一度作り直せ、などと言われたら、また暴力沙汰になっていたかもしれない。


「それじゃあ、お父様のところに行ってきますね!」

「ああ。喜んでもらえるといいな」

「はい!」


 妙に素直な言葉を吐くクロス王子を置いて、私は父ヘイルの書斎へと向かうのだった。








「うん! 美味しいよ、アン。上手に作れたね」


 結果から言うと、ヘイルはとても喜んでくれた。

 途中で手が止まることもなく、持って行った分のクッキーは完食だ。

 これまでは全て食べてもらえることはなかったので、やはり今まで作ってきたものは、あまりおいしくはなかったのだろう。


「あ、あの。お父様……」


 私が言いづらそうにしていると、ヘイルはやや苦笑いしながら、


「クロス王子のことなら、もう怒ってはいないよ。少し手が早いのは、直した方がいいとは思っているけれど」

「ご、ごめんなさい……」


 それは本当に直した方がいいと思っている。


「それにしても、本当にうまく作れたね。ユウリにも手伝ってもらったのかな?」

「はい。あと、クロス王子にも。突然やってきたので、びっくりしてしまいましたが」


 私が苦笑しながら言うと、ヘイルの顔が困惑したようなものに変わる。


「……んん? クロス王子が来ているのかい? 何の連絡も受けていないけど。何か用事があったのかな?」

「……そういえば、何をしに来られたのかは聞いてませんね」


 本当に聞いていない。

 クッキーを作ることになったのは、その場の流れだろうし。

 何をしに来たのだろうか。


 ヘイルは少し考えるようなそぶりを見せていたが、やがて微笑んで、


「それなら、アンにはクロス王子の歓待を任せるとしよう。婚約者なのだからね」

「は、はい。がんばります!」

「うん。拳は構えなくても大丈夫だからね」


 やんわりとヘイルに釘をさされながらも、私は書斎を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ