第十六話 手伝ってくれるらしい
「……あ、あの」
「…………」
――なぜ、ここにクロス王子がいるのか。
アイコンタクトでセバスに助けを求めるが、ゆっくりと首を横に振られた。
この裏切り者!!
「…………」
ユウリは完全に固まっている。
先日のこともあり、ユウリはクロス王子に大きな苦手意識を持ってしまっているのだ。
言葉を強くするならば、トラウマになっていてもおかしくないレベルだろう。
だから会わせるにしても、事前に話をして心の準備をさせておきたかったが……こうなってしまっては仕方ない。
クロス王子がここに来た理由。
それは、もしかすると。
「……クッキーを作っていたのか?」
「え?」
婚約破棄か。
そう考えていたのだが、クロス王子の口から出たのは意外な言葉だった。
「え、ええ。父にプレゼントする予定で」
「ふむ」
「あ……」
私がそう言うやいなや、クロス王子は皿の上のクッキーを一つ取り、それを口へと放り込んだ。
止める隙もなかった。
サク、と表現するには、ややくぐもった音が王子の口から漏れる。
クロス王子はやや顔をしかめていたが、
「これをスタグレーゼ公爵に贈るつもりだったのか?」
「はい。……ただ、あまりうまくできなかったので、今から作り直そうかと」
「……なるほど」
やがて納得したように頷いた。
「レシピはあるのか?」
「は、はい。こちらです」
私の手からレシピが書かれた紙を受け取ると、クロス王子はサッと目を通し、
「よし。俺も手伝おう」
「え」
想定外の言葉が彼の口から出たせいで、私もうっかり素の声が漏れた。
「何か問題があるのか?」
「いえ。ただ、あまりそういうのをするタイプには見えなかったもので……」
私がそう言うと、クロス王子は不敵に笑い、
「言うじゃないか。まあ、王子たる俺に任せておけ」
そう言うやいなや、「エプロンはどこにある?」などと言い始めた。
そんなクロス王子を見ながら、私は思った。
もしかしてこいつ、ちょっと面白いヤツなんじゃないか、と。




