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第十三話 ちょっと間に合わなかったみたいです




「どう、セバス?」

「大変お美しゅうございます、アン様」

「すごくきれいだよ、アン姉さん!」

「そ、そうかしら? えへへ」


 執事のセバスと義弟のユウリから褒められて、私は照れ照れになっていた。

 この日のために新調した漆黒のドレスは、確かに私の赤髪に合っているように見える。

 胸元には、大きな真珠のネックレスがきらきらと輝いている。これも父、ヘイルが用意してくれたものだ。

 お手伝いさんたちに軽く化粧もしてもらい、普段よりも随分と大人びた印象になっていた。

 頭から伸びるツインドリルも、今日は一段と巻き具合に気合が入っている。ように見える。


 私がこれほど気合を入れている理由は、他でもない。

 今日が、クロス王子の来訪がある日だからだ。


「――お嬢様。クロス王子がおいでです」

「おお、ギリギリ間に合った……」


 まさに紙一重というタイミングだった。

 私はホッと胸を撫でおろす。


「まったく、王子だか何だか知らないけど、来るのが早いのよ」

「時間通りですな」

「……ちょっと準備に手間取りすぎたわね!」

「……アン姉さんが、もっとちゃんと早く起きてればね」

「うっ……ごめんなさい」


 ジト目の老執事と義弟の圧に耐えきれず、私は早々に謝罪した。

 昨日はあまりにも眠れなさすぎて、しっかりと寝坊してしまった。

 完璧でなければならない! などと豪語していた頃が懐かしい。

 睡眠が足りていないせいか、頭がボーっとしている気がする。

 私の目元にできたクマさんを、なんとか消し去ろうと奮闘してくれたメイク担当さんには、頭が上がらない。


「それじゃあ、お出迎えにいきましょうか」

「はい!」


 こうして、無事にクロス王子のお出迎えに間に合った私だったが。








「――この俺を待たせるとは、いい度胸だな?」


 前言撤回。ちょっと間に合ってなかったみたいです。


 スタグレーゼ家のエントランスで、仁王立ちしながら怒りの形相でこちらを睨みつける少年がいる。

 灰色の髪に、金色の瞳。

 間違いなく彼が、フォネスト・クロス・ツウォルクォーツその人であった。


 実際に見る彼は、ゲームで見るよりも大変にかわいらしかった。

 七歳という年齢にしてはやや大人びた風貌ではあるが、顔があまりにも整いすぎている。

 その身目麗しい外見も、不機嫌そうな表情のせいで若干の陰りがみられたが。


「ジョレット・アンニ・スタグレーゼでございます。お待たせしてしまい申し訳ありません、クロス殿下」


 ドレスの端を摘み、恭しく一礼する私に、クロス王子は不快げに鼻を鳴らした。


「フン、まあいいさ。早く案内してくれ。この後も予定が詰まってるんだ、さっさと済ませたい」

「――。はい。どうぞ、こちらですわ」


 クロス王子を連れて、私は中庭へと向かうのだった。


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