その1 第伍話 虫対策しました
第伍話 虫対策しました
私が一人暮らしを大通り沿いの部屋に決めたのには理由があった。向かいに蕎麦屋がある(美味かった!)というのも大きいが、騒音が必ずある大通り沿いでも暮らせるという人達なら少しうるさくしても苦情は入らないのではと踏んだのだ。
それはつまりジャラジャラと麻雀牌をかき混ぜるくらいは大丈夫なはず、ということ。
でも、そんな心配は無用だった。なぜなら私の部屋は隣も下も斜め下も空室で音を気遣う必要がまるでなかったのである。
「さてさてー。りょうちゃんのおかげで完全に片付けも終わったし! 今日から2人で特訓しよっか!」
「ええ? 私もやんの? 私は別にそんな麻雀は特訓してまでやりたいわけじゃないんだけどな」と乗り気じゃない涼子を巻き込んでの麻雀研究が始まった(強制)。
遅番メンバーの私にとって弱いとは生活が成り立たないことを意味する。それはつまりこの仕事を脱落しないといけないという事。
それだけは嫌だった。というか私は仕事をしたくない。私は遊び人になりたいの。
自分の好きなことだけをして暮らせる人になりたい。だったら仕事は麻雀打ちになろうと思い至った。そんな女なの! 私は!
「まぁ、仕方ないから付き合うけどさ。でも毎日は来ないからね? 遊びに来た日だけ特別に付き合ったげるわ」
「えー? 毎日やろーよ。なんならロフトに住み着いてもいいからさ」
「やーよ。ここ虫出るし」
「虫くらい良いじゃない」
「よかないわ! たく、次来るまでに虫対策してよ。そしたら多めに遊びに来るからさ」
「わ、わかった! ありがと、りょうちゃん!!」
数日後
「こんにちはー。遊びに来たよ。ちゃんと虫対策してくれたー?」
「うん! ホラこれ買ったから」
そう言って虫取り網を見せる。
「……どゆこと?」
「えっ、コレあれば侵入してきた蝉とかをヒョイって取れるから大丈夫じゃん?」
「侵入させるな! そこからなんだよフツーはさぁ!」
「えっでも蝉は食べることもできるしぃ」
「く う な !」
「はい……」
(ううう、りょうちゃんが怖い……こんな怒ることあるんだぁ~)
(ひいいい、親友だと思ってたけど知らないことってあるもんなんだなぁ。マコトって虫食えるのかー。知りたくなかったなー)
私はこの時の涼子が怖かったのでその後は虫除け対策をしっかりやり蚊の一匹も近寄らない部屋にしたのだった。