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その2 第八話 ご案内点数

第八話 ご案内点数


 この日は涼子も明日学校が休みなので遅くまで店を手伝ってて遅番の時間帯になっても卓に座っていた。

 時刻は23時半。遅番の時間帯の常連客が多く来店する時間だ。ここから始発の時間くらいまでが遅番客の遊ぶ時間である。


「いらっしゃいませ!」

 店長が声をかける。青澤の来店だ。


「おう、店長。今日は嬢ちゃんが遅番やってんのか。ミズサキはどうした」

「ミズサキもいますよ。キッチンでまかないを作ってる所です。換気扇がうるさいから聞こえてないのかな。それより、ちょうどさっき始まった卓があるんだけど……涼子ー。そこ行けそうかー?」

「え? うーんとね…… えへへ…」


 5分前に始まったばかりではあるが涼子は今まさに清一色赤の12000に放銃した瞬間だった。

「おまえというやつは……来客に気付いたら無理な牌は切るなとあれほど言ったのに……」

「何よー! 仕方ないじゃん、ピンフテンパイしてたんだもん。この局で原点に戻ってみせるからちょっと待っててよ」

 涼子は今から親番だ。親満をアガれれば原点に復活する。

 青澤は涼子の配牌をチラリと見て(ほう、ドラ対子のある断么九系の配牌か。確かにこれなら親満をアガれる可能性が充分ある。しかし代走にさせるとリーチも鳴きも出来ないから難しくさせるな)と思い。

「いいや、とりあえずゆっくりトイレ行ってくるから普通にやっててくれ。帰って来た時入れそうな点数なら替わるよ」と言い残しトイレに行った。

 賢い選択だ。これなら涼子は全力で打てるので復活する可能性は高くなったし、復活してなくてもそれはそれで交代しなければいいだけのこと。

 青澤は自分が有利になる選択をすることに非常に長けていた。

 ちなみに交代するには持ち点が20000〜30000前後であることが常識であり、なおかつ上位は40000点以下で下位は10000点以上の持ち点であることも途中からお客さんと交代する『お客様ご案内条件』である。もちろん、それも東4局までという縛りもある上でのことだ。どんなに平均的な点棒状況でも南入している所へはご案内しない。


「よーし、がんばるよー!」


────


 青澤がトイレから戻ると約束通り涼子は25000点に戻っていた。

「おっ、嬢ちゃんやるな。ありがとよ、じゃあ交代するぜ」

「いやー、あはははは」

「?」

「まあ、確かに原点25000に戻したんですけど〜」


 よく見ると場面は東1局だった。


「あれ?! どうしたこれ」

「倍満放銃して終わっときました。麻雀て切ないですね」

「ブハッ!! ははははは!!」


「もーーーー! 麻雀つまんない! もうヤケだ! ごはん食べる。マコトーー。まかない出来たー?」


「はいはい、もうすぐで豚汁と炊き込みご飯が完成するから。お腹いっぱい食べていいよ。冷蔵庫に野沢菜もあるからね。あっ、青澤さん。いらっしゃいませ!」

「おう」


◆◇◆◇


 この後は2人お客さんが入れ替わり1卓丸で平和だったので私と涼子は青澤さんの麻雀を何時間もかけて研究した。


 麻雀が上手くなりたい。そこに理由なんて無い。今ヘタだから上手くなりたい。それだけ。

 そのシンプルな動機で私達は何時間も何日も、いやそれどころか何年も、アタマをフル回転させる生活を送ることになるのだった。



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