その2 第伍話 出禁客
第伍話 出禁客
「あなたのおかげで今まで食べたことのない高級肉の味を知ることが出来ました。ありがとねん! りょうちゃん」
前日、涼子の違反行為による被害を受けた私は店長に高い肉を買ってもらって手打ちとしていた。
「えええー? 全部1人で食べちゃったのー。焼肉一緒にやりたかったー」
「1人じゃないわよ。ちょっとだけカー子にあげたし」
そう言って私は窓の外のカー子を指さした。カラスなんてみんな同じにしか見えないはずなのに、なぜだかあれはいつものカラスだと確信できるのは何でなんだろう。
「カラスなんて残飯漁ってりゃいいんだからカラスに食わすくらいなら私に取っといてよおおお」
「ガー! ガー!」
「ほら、カー子が怒ってるよ。なんかあの子言葉理解してるんだから。バカにしちゃだめだよ」
「そんな馬鹿な」
「ガーーー! ガッガッ!」
「あ、すいません。すいませんー。……ホントだわ、確かにカラスは賢いとは聞くけど、これ程とは」
「でしょ?」
「もうこれ鳥の放し飼いしてる状態じゃない?」
「鳥の放し飼いとか聞いたことないけど」
「しかもカラスのね」
「ガー!」
◆◇◆◇
ある日、鴨井茂樹さんという新規客が来店した。私は同卓することになり私の上家に鴨井さんが座った。
「よろしくお願いします」
「よろしく」
店長は新規さんがきちんと麻雀できてるか斜め後ろから遠目に見てた。これは新規さんが来店した時の店員の仕事のひとつできちんとこの店のレベルで打てるかを確認しなければならない。
車の運転と同じで、道路に最低速度があるように雀荘にも最低速度があるし最低技量も求められる。しかし、それ以上に必要なものがある。この日来た鴨井茂樹という新規さんにはそれが足りなかった。
ことが判明したのは2半荘目の東1局。
1半荘見ててしっかり打てる人だったからもう見守り離れていいかなと思ってた矢先のことだった。私から見てもこの人の雀力は高く思えたし、見守りは離れて良さそうだと判断してた。が、しかし。
鴨井手牌
二四伍六七⑤⑥334566 ドラ3
ここに上家から打たれたのが三。チーして打6とする断么ドラ4満貫テンパイだ。一手変われば三色の跳満進化まで見込める手。それ以外の選択肢などない。
「チー」
しかし、その後この男は長考に入ったのである。
打6とする選択肢以外存在しない手でチーしてから6を切るまでに6秒考えた。これはいけない。
「お客さん。そういう三味線行為はうちは認めてないから。帰ってくれ。選択肢のない場面で考えてるフリしてまだノーテンだと読ませれば放銃があると考えたんだろうけど、そういうマナーのなってない人間は他人と麻雀する権利無いからな。あと深夜営業とかの通報するようならこの写真と新規カードに登録した電話番号と住所を警察に見せるからそのつもりでな」
そう言って店長は斜め後ろから撮影した写真を見せた。サイドテーブルには現金が見えている。この写真を提出されては鴨井さんも逮捕されるから逆上して仕返しなどもできない。
「そんな脅ししていいのかよ!」
「黙れ!! 小悪党が! おめえのような人間失格な打ち手はこの店にはいらねぇんだ。今後この店が通報されたとしたら必ずこの写真は提出するからな。いつか逮捕される日に怯えて生きるんだな。点数動く前に気付けて良かったぜ。このゲームはノーカンだ。失せろゴミのカスがよ。出口はあちらだ、ホラ!」
スキンヘッドで細目の店長が怒りを見せるとかなり怖い。この時私は初めて客が怒られ『出禁』になる所を見た。
こういう客から店を守るために店長はもしかしてスキンヘッドにしてるのかな。なんて思って聞いてみたけど「頭頂部に毛が生えなくなっちゃったからやってるだけだよ〜。悲しいよ」とそこにはシクシク泣いてる店長がいた。やっぱりこの店長は涼子のお父さんだ。小島家は親子でかわいい。