その2 第三話 確率的ベスト手のデメリット
第三話 確率的ベスト手のデメリット
私は青澤さんや店長の麻雀をいつも立ち見していた。そして気付いたことがある。彼らはある程度手が整うまでは確率的ベスト手をほぼ確実に選ぶが、イーシャンテンやテンパイからはそうとも限らないということ。そしてそれによりアガリをものにしている。 私はその事をノートに書いておくことにした。
――今日気付いたこと
確率的ベスト手を選ぶことにはとあるデメリットが存在する。それは『読まれる』ということ。
例えば2445をスリムにする時。まずは2そして4とするのがどう考えても確率的ベスト手だ。しかしそれを並べた捨て牌は2→4と手出しが並び、ここから3-6が危険であることが想像つかない雀士などいない。
しかし、これを受け入れ枚数が減ることを承知で4→2の順番で並べたら?
2445からというより1124あたりをイメージして1を警戒するだろう。
また逆に1124をスリムにする時も2→4の順番で切り出せばまさか1のシャンポンだとは思わない。つまり、確率的ベスト手を選択しないということは読みを外せるというメリットが存在するのである。
また、3334六七⑤⑥などのイーシャンテンの時。受け入れ枚数的ベスト手は4切りとしても六七or⑤⑥に手をかけることが良い場合がある。それは最終形が3面になる枚数的可能性の話もあるのだが、何よりそうなった場合の4の受け。つまりトリッキーな受けの部分に価値を感じるからだ。
ベスト手だけが勝ちのルートではない。とくに読みの鋭い相手である場合や、積極的に攻めてもらえるわけがない点棒状況、局面であるならばあえての受け入れ枚数減ルートを選ぶことによる勝利プランがあることを意識して、ベスト手以外の策も全て考えながら打つべきなのだろう。
ああ、麻雀はなんて難しいんだ。
これだから面白い。
「りょうちゃんりょうちゃん、これ読んで」
今日は涼子がうちに遊びに来てる。この気付きを今すぐ涼子にも伝えたいし、書いたものを評価してもらいたいのもあって、ノートを共有してもらった……が。
「まあ、よく書けてるとは思う。……けどそんなのさー。気付いたところでまだ意味ないよ。私達はまず確率的ベスト手をマスターしてないんだからさ。1年生の私らに6年生の教科書に書いてあるような気付きを説明されても仕方ないでしょ」と言われてしまった。
……た、確かに。
成長の順番すら間違える。私はまだまだ本当に初心者なんだなぁと思わされた。
でも、いつかは。この気付きとかも役に立って、すんごい強い雀士になれたら……いいな。
「……よし!」
「カー! カー!」
まるで私の秘めたる決意を応援するかのようにカー子が鳴き声を上げていた。