その2 第一話 涼子の一日
ここまでのあらすじ
ミズサキは高校生の時から雀荘遅番で働く異端の中の異端。それも女の子だというのだから麻雀界の最異端児と言っていいんじゃないだろうか。そんな経歴を持つミズサキとその親友である涼子の日常の物語がここにの〜んびりと繰り広げられる。
【登場人物紹介】
水崎真琴
みずさきまこと
雀荘『こじま』の遅番メンバー。
麻雀が好きなのと働きたくないのがリンクして雀荘遅番という職業につくことを選んだ現代に生きる遊び人。まだ未熟なため給料を守るのにヒーヒー言ってる新米社員。
小島涼子
こじまりょうこ
雀荘『こじま』の店主の娘でミズサキの親友。とても真面目な見た目と裏腹にかなりふざけた性格をしてる。
調理師専門学校生。パズルには弱くてアタマは固いほうなので麻雀はあまり向いてない。柔軟性の化身のようなミズサキ惹かれるものがあるようだ。
小島悟
こじまさとる
雀荘『こじま』の店主で涼子の父。スキンヘッドで細目のいかにもなヤクザスタイルだが正真正銘のカタギでありとっても優しいお父さんである。
青澤正克
あおさわまさかつ
攻めてよし、守ってよしの万能雀士。ミズサキに興味を持ったようで最近ちょくちょくこじまに来店する。
その2
第一話 涼子の一日
私は小島涼子。田舎の商店街のはずれにある小さな雀荘『こじま』の店主の娘である。お父さんは私に継いでもらいたいらしいけど、私に麻雀熱はそれほどないし、そういうのは麻雀の才能溢れる親友の水崎真琴とかがやればいいと思う。まあ、あの子に経営とかが出来るとは思わないけども。
私はこの春から専門学校生になったけど、なんだか調理師専門学校って思ってたのと違ったな。これはもう今から学ぶ所じゃなくて、技術がある人たちが調理師免許もらうために通う学校みたいな感じ。ハッキリ言ってついて行けない。かと言って雀荘を継ぐのはむいてないし。どうしたもんか……
(ま、なるようになるか。今はまだ考えなくてもいいや)
難しく考えると気持ちが落ち込むだけなので問題を放置して私は今を楽しむことにした。とりあえず店に出ればマコトがいる。マコトと一緒にいるとそれだけで私は楽しいんだ。
単線の電車に揺られながらそんなことを思って少し微睡んだ。
(……今日も疲れたな)
出来ないことを1から覚えていくことは本当に疲れる。この生活を2年やると思うと気が滅入るが、まだ始まったばかりだ。音を上げるのはもっと本気で頑張ってからにしよう――
──
────
ハッ!
「あっ、降ります降りまーす!」
気が付いたら駅に到着してた。私は慌てて電車のドア開閉ボタンを押したがギリギリの所で間に合わなかった。
うう、恥ずかしい……。
ド田舎なので一駅一駅の区間がとても長い。しかも単線である。つまり、この電車が終点まで行き、折り返して戻ってくるまで戻る電車は来ない。私は諦めて次の駅で降り、駅前のバスを利用して戻ることにした。ああ、時間もお金も無駄しちゃったな。恥もかくし良いことない。ずいぶん遅い帰宅になっちゃった。
「……ただいま」
「りょうちゃんおかえり! 遅かったね」
帰るともうマコトが出勤してた。ずいぶん早い。本来の出勤時間はあと1時間半後のはずだ。
「どうしたの、こんな早くから」
「うん、なんか目が醒めちゃったから早出しようかなって。りょうちゃんとも遊べるかと思って来たんだけどいなくて参ってた。なんでこんな時間なのよ」
「あー、電車で寝ちゃっててさ」
「だめだよ寝る前にアラームかけなきゃさ。電車の本数少ないんだから。なんのためのケータイ電話よ」
ケータイ電話は通話のためではないだろうか。と思ったが、たしかにそうだ。アラーム機能というものを使えばよかったんだ。
「次から気を付けるよ」
「うん、そしたら2人麻雀で練習しよ!」
私は言われるままに卓に座り2人麻雀を始めた。特訓なんかしたくないって言ってんのに。だいたい、マコトは早出したってことは仕事中でしょ? 仕事の時間使って特訓とかしていいのか?
そんな思いや疑問があったけど、帰ってすぐにマコトに会えるなんて思ってなかったから。単純に嬉しかった。
ほんと、私って簡単な人間よね。