その1 第一話 遅番ミズサキ
「ガー ガー」
鋭く響く声で、時に低く喉を鳴らすような音も混じる。リズムは不規則で、短く切れ目なく連なる場合もあれば、間を置いて一声だけ響くこともある。どこか金属的で、荒々しくも力強い、ただひとつわかることは。この子は多分「起きろ!」と言っている。
カラスが今日も私を起こしに来た。
「おはよう、カー子。今日もありがと」
ジリリリリリリリリ
カラスに少し遅れて目覚まし時計が鳴る。
カチ
「今日はカー子の勝ちだったねえ」
「ガー!」
コチ、コチ、コチ、コチと秒針を進める目覚まし時計がなんとなく悔しそうにしてるように見える。
あたりは夕焼けに染まり人々の一日が終わろうとする中で私の一日が始まる。私は雀荘の遅番。夜に始まり朝終わる。そんな仕事をしている女だ。女性では珍しいことだが、いないわけではない。そんな人間だってこの世界には存在しているのだと知って欲しい。
そのことを、知って欲しくて毎日少しだけ、書き物をしてる。
時は遡って、私がメンバーの真似事をし始めた頃の話から聞いてくれますか?
その1
第一話 遅番ミズサキ
私は雀荘に対してマイナスのイメージを持ってない。大人が遊ぶ娯楽施設。アミューズメントパークとかの括りだと思ってるから。だって、そでしょ? 好きな遊びをやる。そこに使用料を払う。フツーのことじゃない? なんでこれがアンダーグラウンドな括りにされてしまうのか理解できない。時代は平成ですからね?
そんな風に私と同じ思いをしてる人はこの世界のどこかにいるはずだ。と思いながらこの熱い想いを当時働いてた雀荘の店長に伝えると。
「まあ、ミズサキの言い分はわからなくもない。わからないわけでもないが、まずは高校を卒業しろ? 年齢隠して深夜の雀荘でバイトみたいな事してるなんてのは世界広しと言えどもさすがにミズサキ1人だけだろうからさ。
うちはテキトーだし郊外でポツンとある店だからそれも可能とは言え、とんでもないことしてるのは間違いないからな?」
「う、わかりました……。それはそうか」
この店『麻雀こじま』はド田舎の商店街の端っこ。それも少し商店街から離れた位置にある一応商店街に参加してるよというだけの店。みんなからは『離れ小島』なんて言われてる。お客さんはいつも同じだし、警察の見回りなんて来たことない。そんな離れ小島で私の雀荘生活はスタートしました。
別に、両親が亡くなったとか、海外にいるとか、そんなわけじゃないんだけど。私はここにいた。
親はたしかに健在だけど私は親と仲良くなかった。そう、私は家出少女だったんだ。