卒業までは先生だから
立見結は今日、浪浪高校を卒業する。
楽しかった。
終わって悲しい。
けど、この日をずっと待っていた。
夕方。
皆とは夜にファミレスで待ち合わせ。
私は制服のまま教室で待っていた。
校舎にもう私以外の生徒はいない。
「立見、まだ帰ってなかったのか……」
「先生!」
紫門広先生。私の元担任で
「先生大好き!」
「抱きつこうとするな。」
私の好きな人だ。
「先生と生徒だからダメって、先生言ってたでしょ?
もう卒業したんだから良いでしょ?」
「僕は仕事中だ、考えろ。それに卒業式は終わったが君は未だ学生だ。」
先生とは三年間一緒で、私は二年生の頃から付き合っていた。
苦しい時、辛い時、私を支えてくれた先生。
楽しい時、嬉しい時を私にくれた先生。
けど、手も繋がずにここまで来た。
何度も何度も告白して、本気だって伝えたけど、こう言われたから。
『卒業までは僕は先生、な?』
その約束を守って勉強して第一志望に合格した。
「御褒美くらい良いでしょ?
今までずっと待ってたんだから……」
「……意味解ってるのか?
もう先生と教え子じゃなくなるんだぞ。」
「もう卒業式は終わったんだから。先生と離れ離れになるのは嫌。」
ドキドキする。熱でもあるみたい。
「……はぁ。解った。覚悟は出来てるんだな?」
先生の目が変わった。
「……………出来た。」
深く深呼吸して、言った。
「……解った。」
自然と目を瞑っていた。
先生の足音が聞こえる。
2人の息遣いが聞こえる。
何かがぶつかった。
目を開ける。そこには先生の顔があった。
とても冷たくて、何もない顔をしていた。
「先生、なんで?」
足から力が抜ける。
お腹 痛い 立てない あれ なにかお腹に刺さって ナイフ 赤い 血が出て これ、先生が? ……なんで?
「なんでって…………これは復讐だよ。」
「え?」
優しかった人を、初めて怖いと思った。
「君が生まれる前のことだ。
君の両親は、教師と教え子の恋を面白半分で壊して、2人を死に追いやって、生まれた子どもを独りぼっちにしたんだ。
大事なものを奪って、僕を独りぼっちにしたんだ。
だから僕も2人から大事な君を奪うことにした。」
そこには私の知っている優しい先生はもう居なかった。
痛い。熱い。なのに、体が冷たくなって、力が入らなくなって……
なんでこんな、こんなことって……
「先生、なんで………」
私の質問に先生はいつも答えてくれた。
「決まってるだろう。僕は、卒業までは先生だから。」
先生が目の前から消えていった。