2、ダンジョンとは様々な形で現世に絡みついている存在である
「ダンジョン税を差し引き、二万一千百円となります。お振込みですか?」
「はい、お願いします」
放課後から潜って二時間程度の稼ぎとしては、上々じゃね?という範囲か。
ポーションが主な稼ぎ頭なのは言うまでもない。魔石とか浅い層のはどれも安いしね。
地元である市内に唯一あるダンジョン、その探索者協会支部の清算窓口で、本日の稼ぎを口座振込してもらう。
支部といっても出張所みたいな規模で、建物自体はダンジョンの入り口を囲むゲートよりも安っぽい。二階建てだが耐久性はプレハブ住宅とどっこいではあるまいかな?
まあ、ダンジョンモンスターが時折内部から外にあふれ出す氾濫現象、俗に迷宮暴走を水際で一時的にでも食い止める目的のあるゲートに金をかければ、支部の建屋に回る予算まで潤沢とはいかないんだろう。
外国には派手にばらまいて人気取りするくせに、国内にはケチるのがこの国における政府のお家芸らしい。
職員もそういう意味では危険のすぐそばで務めているわけで、命がけな可能性もあるのだから、ご苦労様ですと言いたい。
ちなみに探索者協会は一応国際組織であり世界共通の理念と規則は設けられてはいるが、各国に置かれる機関は緊急協力体制でも起きない限りはそれぞれで国営法人による運営となっており、職員になるのはすべからく公務員資格が必要となる。
おかげで福利厚生はそこらの一流企業に勝るとも劣らないが、前述のとおり時に危険性もあるため、エリートではあるが人気が高いとはいいがたいお仕事だと世間的には見られている。
とはいえ、実力のある上位の探索者となると日当で数千万とか稼いでいるので(さすがに日帰りではなくパーティやクラン単位での泊まり込み遠征だったりするが)、女性職員たちの中では玉の輿狙いの出会い目的で人気もあるそうだ。
なお情報源は受付窓口の女性スタッフより。
田舎だからね、支部のスタッフもそこまで忙しいわけでもなく、ダンジョン入出とか、さっきみたいな清算の時折世間話なんかで、割とあけすけに話してくれるのである。さすがに機密とかは無理だけどな。
「それにしてもクリクリ、そこそこ稼ぐようになったわねー」
と、今も口座振込手続きを手元のパソコンで処理つつ、勝手に人につけてくれたあだ名で呼んでくれるのは、通い続けてなじみとなった受付嬢の一人。
名前を笹野 晶子さんとネームプレートに刻まれた若い窓口担当の女性スタッフである。なお年齢は(ギロリ)、はい、スイマセンお口にチャックしますっ!
「てかさぁ、そろそろその呼び方、やめません?」
「んー、でも中学生のころから、ちっこい体つきで頑張ってきた君を知ってる身としてはねー」
「もう高校生だし、あのころと比べたら体格もよくなってますよー」
「まあそうだけど、でも今更ねー、ほかの呼び方って言われても」
普通に君付けでいいじゃないですかと思わなくもないが?
「もっと稼げるようになって、私に貢いでくれたら考えてあげてもいいわよぉ?」
「謹んでご辞退申し上げます」
「かわいげないわねー……」
まあ、確かにそれなりの美人だしスタイルもいいんだけど……なんとなく、厄介そうな人なんだよなぁこの人。何がとは言わないが、前世から得た知見というか、勘働きというか、そういうのが警鐘を鳴らすのだ。こいつは俺の手には負えないぞってな。
それはともかく。
この世界においてダンジョンという存在と概念は紀元前からあったらしく、歴史上の偉人半数くらいはダンジョンの制覇者や討伐者だったりする。両者の違いは、資源鉱山として扱ったか、消滅させたかの違いである。
なので探索者の存在は歴史も古く、現代にいたっては資格取得の敷居も低いのだ。何しろ本人の意思次第で、13歳から協会主催の認定試験をパスすれば取得できたりする。俺もそうだったし。
笹野女史にはそんな駆け出しのころからお世話になっているので、なかなかに頭が上がらない相手だったりするんだよなぁ。
とはいえさすがに未成年は準資格扱いで、潜れる階層も制限があるんだけど。
そして死んでも自己責任として、念書を前もって書かされたりする。前世の世界だともっと殺伐としていたから、まだマシなのかもしれないがね。
ほかにも宗教とかの発足にもかかわっていたりする場合があり、聖遺物と世に知られるいくつかはダンジョン発祥の超レアものなアーティファクトだったりする。
うん、前世でもあったなぁダンジョン教団みたいなの。でもあれ割と邪教に近かったんだよなー……。そして今世でも玉石混合である。
ダンジョンで人を殺して、それを神にささげる崇高ないけにえの儀式だとぶち上げるところとかあって、冗談でなくテロリスト扱いされたりする宗派もあるのだ。
日本国内には幸い滅多にないが、皆無ではないところが自分も探索者である俺としてもシャレにならん話だよ。
さて、お家に帰るか。




