第五話 初めてのポーション
採取クエストで取ってきた薬草は全部を提出したわ
けではなかった。
馬車に揺られ、領主の屋敷に戻ると早速部屋に閉じ
こもった。
ナルサスはこの後、エリーゼさんに剣の稽古を付き
合ってもらうらしい。
彼が頑張っているのに、神崎が何もしないわけには
いかなかった。
自分なりに出来る事を精一杯やろう。
この世界に来た時に、自分に誓った事だった。
「よし、じゃ〜始めよっかな〜」
領主様の屋敷では色々な書物が寄贈されていた。
各領地へ行って集めたものから、魔導書の類まで
がー色々揃っている。
ここでは攻撃魔法を教えてくれる教官はいてもそ
れ以外の錬金術や、薬草には詳しい人はいなかっ
た。
ダンジョンに出かけない日は、日当たりのいい場
所で本を読む事にした。
神崎の今読んでいるのは、回復ポーションについ
て書かれているものだった。
本当だったら聖女や聖人と呼ばれる教会に属した
者が作成すると書かれていた。
光属性か聖魔法の使い手になれる可能性を秘めて
いるらしい。
聖魔法なら簡単に精製が可能らしい。
だが、神崎は攻撃魔法は使えない。
魔法という実感はあまりないのだ。
シールドを張って身を守る以外は、他者へとバフ
をかけるという他人依存の支援職だからだ。
孤立したら、戦えないどころか、命だって危ない
のだ。
「どうやって属性を見るんだろう…」
だから、自分の属性が全く分からなかったのだっ
た。
「まずは〜、この薬草を細かくして…ふむふむ…」
だったら、なんでも試してみよう!
と言う事で、今こうしてポーション作りに励んで
いるのだった。
もちろん、領主の許可は取ったし自室に籠ってい
る事を誰もが知っている。
だからなのか、今横でじっと眺めている人が一名
いる。
「そのまま続けていいですわよ?」
「う〜ん……気が散るんだけど…」
「でも、カナデなら大丈夫ですわ。頑張って下さ
いませ」
「……」
「それなら、これはどうでしょう。もしポーショ
ンを作るのに成功したら、わたくしがお父様に
頼んで販売先を紹介いたしますわ」
「えっ!本当に!」
「えぇ、普通そう簡単に出来るものではありませ
んもの。出来たのなら……全力で支援しますわ」
なんとも嬉しい確約を得たのだった。
気を取り直して書物を読みながら手にした粉末を
混ぜ合わせながら解いていく。
調合しているような気分になる。
ゲームだったらここで魔法を唱えるとかしそうで
あった。
が、実際はただ混ぜるだけだった。
「あれ?本当にこれであってるんだよな〜……
んん?」
粉は合わさると、ゆっくりと乳化していった。
混ぜれば混ぜるほどに透明になって、色合いが変
わっていく。
完全に液体になると、自分の手が温かくなってい
るのに気づく。
別に熱いというわけではない。
ただ、緊張しているせいなのだろうか?
そう思っていると、ポンッと音がして鍋の中から
瓶に入った小瓶がぷかぷかと浮いていた。
「これは……」
「ポーションですわね!」
「これが……ポーション?」
ただ、さっきまで混ぜていただけのはずが、いき
なり容器に入って現れるとは予想外だった。
さすが魔法の世界。
なんでもありなのだろう。
出来立てのポーションは少し温かくてキラキラし
ていたのだった。




