第二十六話 受付嬢は絡まれる
朝早くに、冒険者ギルドにやってくたエリーゼ達
は討伐依頼を受けると、すぐに行ってしまった。
もう少しエリーゼ様と話していたいと思う人が多
い中、受付嬢は素早く手続きを終えて送り出した。
受付けをしている者としては、昨日の変な男達と
鉢合わせて欲しくないという気持ちが大きい。
「何かあったのかい?」
「いえ、何もないですよ?今日もお気をつけて行
ってらっしゃいなのです」
「あぁ、いつもありがとう」
会釈をするカナデという少年とエリーゼ様、そし
て顔のいい奴隷が一緒だった。
最近ではこの3人で行動する事が多くなった。
どの依頼も簡単にこなす。
そのせいかカナデのランクが上がって来ていた。
カードにはいまだにレベル1のままだったのが気
になるが、あの奴隷の青年が強ければ何の問題
もない上に、エリーゼがいるのだ。
戦力的に足りないという事はないだろう。
王都の伯爵でさえも、自分の護衛に雇いたいと
言うほどの人材なのだ。
だが、今は地方騎士のルイーズ様の騎士として
雇われている。
この領内でルイーズ様を知らない者はいない。
戦いでは先陣切って戦う猛者だと言う。
領内の揉め事や、荒事は、どんな細かい事で
もしっかり調べてくれるし、騎士を派遣して
くれた。
街の住民は荒くれ者の冒険者が入って来ても、
すぐに騎士達がなんとかしてくれると、安心
していたのだった。
それほどまでに信頼されている。
これは長年の積み重ねによるものだった。
不作の時は、税を低く、豊作の時は、色々と
お祭り騒ぎで祝ってくれる。
住民にしては、これ以上ないほどのいい領主
だったのだ。
昼頃になると、昨日の冒険者がまたやって来た
のだった。
「おう、依頼は伝えてくれたか?」
「いえ、まだいらしていないようです」
「おい、嘘を言うなよ?今日の朝に来たって話
を聞いてんだぜ?こっちはよぉ〜」
受付けには守秘義務というものが存在する。
大事な冒険者なら、尚更だ。
「どう捉えてもらっても結構ですが、来ていな
いと言ったら来ていません」
「この、女っ……」
「まぁ、待てって。なら、あんたでいいや。
ちょっと付き合えよ」
「個人的なやりとりはしていません。ギルド長を
呼びますよ?」
「ちょっとした冗談だよ。それより、いつ休憩な
んだ?一緒に飯でも行こうぜ?」
「おい、竜……いい加減に」
長野の言葉に、さっきまで話していた上島が眉を
顰めた。
受付け嬢は無言になると、時計をチラリと見た。
「まぁ、いいや。また来るよ。竜行くぞ」
「いいのかよ?まだ……」
「いいんだよ。黙って来い」
出ていくのを確認して、受付嬢はホッ胸を撫で
下ろした。
もうすぐ休憩時間だったのだ。
今日は、嫌な予感がして外には出たくなかった。
が、今日に限って弁当を忘れたので近くのパン
屋へと行こうと思っていたところだった。
こっそりとギルドの裏から出ると、パン屋へと
向かった。
後ろから誰かがつけて来ていてるとは夢にも思
わず……。
焼きたてパンを買って、広場の噴水のベンチに
座ると真上から影が落ちてきた。
ふと顔を上げると、そこにはさっきまでいちゃ
もんをつけて来ていた冒険者が二人立っていた
のだった。




