第十八話 消えたもう一人
長野達が城を出て行って、ホッとしたのは何もクラ
スメイト達だけではなかった。
何かと問題を起こした人物達だっただけに、騎士達
の間でも、安堵の息を漏らす者は多かった。
「そう言えば、一人いなかったですね」
「なんでも殺されたと言っていたとか!」
「城の中で殺されるなんて、有り得ないよな?」
「そりゃそうだろ!俺たちが毎日見張りをしている
って言うのに、そう簡単に死んでたら、俺たちの
見張りがサボっているみたいじゃねーか!」
騎士達は口々に非難した。
だが、その中でも一部の騎士は日比野の行方がわか
らない事に不安を感じていた。
「そう言えば真面目に稽古に来ていた日比野様はど
うしたんだ?勇者候補達の中では一番真面目だっ
たよな?」
剣術も魔法も着実に上達してきていた。
教えがいがあるというものだった。
戦争に行ってから、少し気落ちしていたように見え
たが、ちゃんと食堂に来て食事を持って行った。
だから、誰もが安心していた。
そして、その日を境に姿を見なくなった。
最近では賢者の地下室へと降りていったという証言
も耳にしていた。
コンコンッ。
「賢者様。おられますか?」
全く返事がない。
そういう時は、荷物にメッセージを書いて置いて
おくのが礼儀だった。
が、今日の騎士は違っていた。
日比野と仲がよかった女性騎士だったからだ。
コンコンッ……コンコンッ。
「返事してください。お願いします………今日は
どうしてもお聞きしたい事があるんです。失礼
します……」
声をかけると、ドアを開く。
中は昼でも真っ暗で、光の魔法を使う賢者様なら
ではだった。
手に持っていた灯りを付けると中はガランとして
いた。
何もない。
そう感じるほどに、部屋いっぱいにあった書類も、
実験器具も、全部が無くなっていたのだった。
床にはいくつかの黒いシミが転々としていた。
奥は薬品の匂いが充満している他は、なんの変哲
もない部屋だった。
今まで賢者が寝起きしていたベッドは空になってお
り、荷物一つなかったのだった。
いつの間にか、出て行ったという事なのだろうか?
日比野もそれについて行ったと考えるべきか?
「日比野様……そんなはずはない。挨拶も無しに出
て行く人ではないはずだ……きっとどこかに…」
何か痕跡が無いかと探す事にしたのだった。




