第十七話 主役は自分だ
何がどうなっているのだろう。
それを考えたくない気持ちと、江口がすでに亡
くなっているという事実に犯人の心当たりを探
った。
長野は終始黙ったまま城へと向かっていた。
「どういう事だよ。江口が死んだって言ってたよ
な?」
頭を掻きむしりながらさっきまでのチャラい言い
方から乱暴にズカズカと歩いていた。
横にぶつかっても無視して長野に続いたのだった。
城に着くとまず、あてがわれていた部屋へと向か
った。
昨日は戻っていないと思っていたが、そうではな
かったらしい。
食事は外で食べたのかと思っていたが、食堂から
肉をくすねて来ていたらしい。
その証拠に部屋のテーブルの上に食べかけのが残
っていた。
窓は開けたままで何かを見て飛び出して行ったと
推察できる。
「この部屋から何かを見たって可能性が高いよな」
一人口走る長野に、上島はイライラしながら部屋
の調度品を殴り飛ばす。
床に落ちて大きな音を立てて転がっても誰も苦に
はしないだろう。
後で城のメイドが来て片付けて行くだろう。
「食べるものを持てるだけ持って行くぞ」
「どこに行くんだよ?」
「ここにいても、俺たちの事を護ろうとする騎士
は居ないだろ?だったら、自分の命は自分で護
るんだよっ!」
「あぁ、そういうことか!」
金貨を出来るだけせびると、城を出た。
これからは毎日のように娼館を渡り歩いて、豪遊
はできなくなる。
だが、町娘を捕まえて遊ぶ分には困らなかった。
「冒険者ってさぁ〜C級になればモテるってよ!」
「そんな中途半端なのでいいのか?いっそS級を
目指そうぜ」
長野は自分の力でなら、上に行けると確信してい
た。
どの世界でも、自分が主役。
そう思えて仕方がなかった。
元いた世界でも、自分に逆らおうとする者はいな
かったし、出来なかった。
それは、自分が特別だったからで、今もそうだと
疑がっていなかった。
「俺らは、物語の主人公だからな…主人公は最強
って決まっているよな?」
「あぁ、そりゃそうだ!」
長野の言葉に頷くと、上島もついていく。
途中で、クラスメイトだった人に会ったが、目が
あった瞬間、怯えたように避けていった。
そう、誰もが逃げ出すほどの威圧感がある。
そう信じていた。
「冒険者として名をあげるぞ?」
「おぉ、今噂の最強パーティーと組めば俺たちが
最強だぜ」
「そう言えば今最強なのって、エリーゼとかいう
地方騎士だったよな?」
ギルドに書かれていたギルド通信を思いだす。
「美人だったよな?横には可愛い子もいたし」
「そうだな、子供でもダンジョンに潜れるって言
うんだから、よっぽど低レベルなんだろうぜ?
いっそ俺たちが入れば、もっと高みを目指せる
って教えてやろうぜ?」
「いいな!それ。なら、ここからちょっと離れる
がそのルイーズ領へ行ってみようぜ」
行き先を決めると乗り合い馬車へと乗り込んだの
だった。




