第十三話 追い詰められて
クラスメイト達は問答無用で戦いの場に連れて行か
れる事になった。
そこで目にしたのは、蹂躙される亜人の姿だった。
怒り狂ったように、四肢が捥げても向かってくる姿
は恐怖でしかない。
それをいとも簡単に賢者の魔法が貫き屠っていく。
味方なら心強いが、もし敵だったらと思うと、考え
るのを辞めてしまいたかった。
「こっちには賢者様がいるしな……俺たち要らない
んじゃ…」
「そうよね……私たちじゃただの足手纏いだし?」
「わかる〜。もう、帰りたいんだけど…」
「もう諦めろよな〜。戦っても勝てね〜だろうが」
日比野はこの現状を見ながら、いつも他人事なのを
実感した。
そうだ……僕もこんな感じだったんだ。
いつもどこか他人事で、誰かがやればいい。
そう思っていた。
今はこれでいい。
でも、あの石が出来たら弘前は一体どうするつもり
なのだろう。
弘前にとって大事なのは神崎だけで、それ以外はど
うでもいいと言う感じだった。
城に戻ると、みんな今日は食事を抜いていた。
あんな現場を見て、普通に食事が出来るだろうか?
それでもいつものように食事を運ぶのは日比野の役
目だった。
「おい、日比野。お前それ、どこに持っていくつも
りなんだ?」
後ろからかけられた声は聞き覚えのあるものだった。
一番会いたくない人物だった。
「江口くん……」
「そういえばこの前は兵士に庇われてたよな?今日
は庇ってくれる兵士ちゃんはいないぞ?」
今は、長野と上島は居ない。
香水をぷんぷんさせて近づいてきていた。
多分、少し前まで娼館にでも行っていたのだろう。
昨日の夜に出兵したのは知らない様子だった。
「部屋で食べようかなって……」
「部屋ってこっちにはないだろ?どこにいくつもり
だったんだ?言わねーと……俺のサンドバックに
なるか?ちょっと骨は折れるかもだけど、死なね
ぇように加減してやるよ?」
「…っ」
恐怖にガタガタと震え出す。
このままじゃダメだ。
昔と何も変わっていないのではないか?
弘前を呼びにいくか?
それとも……。
「おいおい、黙っちゃってさ〜。肯定って事でい
いな?」
腕を上げた瞬間、顔に向けて風の魔法を放った。
『かまいたち。』
本当なら風であらゆるものを切り裂く魔法だ。
だが。火力不足でパシィン!と音がした。
空気を圧縮したものを当てるだけしか出来なかっ
た。
ただ怯ませるだけだった。
それが、江口を怒らせる事になっているとは、考
えなかった。
皿ごと料理を顔に目掛けて叩きつけるとすぐに走
り出す。
兵士達の宿舎に行くか、それとも訓練場か…
どちらも今は居ない気がする。
だったら……。
即座に地下へと向かった。
弘前の研究室。
今なら戦い終わった賢者である弘前がいるはずだ。
部屋に駆け込むと鍵をかけた。
「弘前くん!弘前くん、いる?」
「おい、そこに弘前の野郎もいるのか?だったら
二人まとめてボコってやるよ!開けねーとぶち
壊すぞ?」
外でゴンゴンとドアを叩く音が聞こえてくる。
そして、一気にさっきまであったドアが吹き飛ば
されていたのだった。
「うそっ……」
「おい、鬼ごっこは終わりか?弘前もいるんだろう
?さっさと出てこいよ!」
日比野は咄嗟に身を隠した。
電気もなく部屋は真っ暗だった。
奥の部屋は薄暗く灯りがゆらゆらしている。
江口はまっすぐ奥へと入っていったのだった。




