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第十一話 一番大事な事

賢者様とは魔法のスペシャリストだと言う。

それだけじゃなく。あらゆる知識も豊富な唯一の

存在だといわれていた。


そう言われてみれば、弘前は学年でも上位に名を

連ねていた。


あのイジメさえなければ……。


唯一、友人であった神崎だけが弘前を庇ったのだ。

代わりにイジメのターゲットになってしまったが…


そして、みんなの前で殴る蹴るは当たり前で、先生

の前で辱めたりとエスカレートして行った。


もちろん止める教師もいなかった。


長野の親が学校に多額の寄付をしていたという噂

が流れたのもその頃だった。


それを聞いて誰も口出ししなくなった。


それでも学校を休まなかった神崎には同情を禁じ

えなかった。


そしてあの日、事件は起きた。


教室にいた人がいきなり異世界へと転移させられ

たのだった。


日比野には信じがたい事だった。

そしてクラスメイトだと思っていた内気な弘前が

まさかこの世界では誰もが一目置く存在になって

いたなど、信じられなかったのだった。


食事を運びながら考える。

どうしてこんな実験をしているのか?

魔法で何とかならないものなのだろうか?


知識を誰よりも持っているから賢者と言われてい

るのではないのだろうか?


疑問は膨れ上がるばかりだった。


コンコンッ。


「はい。」

「日比野です。」

「入れ…」

「…」


中に入ると、また幼かったはずの少年が成長して

いた。

まだ自分たちより少し年下な気がするけど、そう

変わらない気がするまで成長していたのだ。


「神崎……くん……」

「あぁ、もうちょっとかな……すぐに会えるよ」

「あ……あのさ…、人を殺さないと出来ない事な

 のかな?だって、弘前くんはこの世界では一番

 知識を持ったのが賢者なんでしょ?だったら…」


言いかけて、言葉を止めた。


顔の横を氷の礫が通り過ぎたからだった。

壁にめり込むと、スッと溶けて消えた。


「人間ってこの世界でも、向こうの世界でも害虫

 なんだよ。だから間引いてるの?何が悪いの?

 神崎くんが生きている事が一番大事で、それ以

 外は要らないんだよ。分かってるかな?自分の

 立場…」


弘前の声はあきらかに苛立ちを含んでいた。

最近色々と兵士に聞いていた印象と全く違った。


「さ……最近…城の中で弘前くんを…探している 

 から……」

「あぁ、長野達か?他っておけばいい。あれでも

 役に立つからな……」


赤い小さなかけらを眺めながら言う。

まるで日比野など眼中にないとでも言っているよ

うだった。


それから、数ヶ月が経った。

その日は、少し日差しが暑く、風は穏やかな日だ

った。


「聞いたか?戦があるってよ」

「戦って、戦争って事か?まさか俺たちも行けと

 か言わないよな?」 

「俺、嫌だぞ?」

「私も嫌よ。人間相手に殺し合いなんて絶対に嫌

 よ!」


口々に漏らした。

日比野は急いで弘前のいる部屋に駆け込んで行っ

た。


「弘前くん!いるかい?」

「煩いな…聞こえている…」


寝起きなのか機嫌が悪い。


「戦争が起こるって噂があって……」

「あぁ、それなら本当だ。僕が仕向けたのだから

 ね」

「本当?だって…え、仕向けたって…それじゃ…」


面倒くさそうに起き上がると、コップに水を入れ

る。


「大量の人間の命がいるんだよ。だから向こうから

 攻めてくるように仕組んだんだ。今頃躍起になっ

 ているだろうね〜。大事な娘をいきなり殺された

 んだからね……」

「どうして……」

「神崎くんを生き返らせる為だよ?それ以外に何か

 あると思ったのかい?」


弘前にはそれだけが大事な事のようだった。




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