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第九話 後悔先に立たず

咄嗟に、慌てると日比野は自分の持っていた短刀

を目の前に出した。


「僕は決して敵意なんてないんだ。学校でイジメ

 があった時も、僕は何もできなかった。神崎く

 んだけは違ってたけど…」

「それで?」


冷たい視線が日比野を震えさせた。


「だから……、今度は僕も戦うから……一緒に戦う

 から。」

「戦うって誰と?まさか長野達の事を言ってる?

 あんな小者に苦戦するとでも?この世界では僕

 は王様よりも地位が高いんだよ?兵士だって動

 かせるほどに…それがあんな奴等に遅れを取る

 とでも思ったとか…くくくっ……傑作だよ」


何がおかしいのか、弘前は笑いながら手前にいた

鎖で繋がったままの奴隷へと杖を向ける。


「彼等は奴隷と言って自分を金で売ったり、犯罪

 を犯して捕まったり……もしくは戦争で敗戦国

 の兵士だったりと様々いるんだ。だが、生きて

 いるだけで何の生産性もない。だから僕が、生

 きる意味を教えてあげるんだよ。こうやってね」


杖の先が光るとさっきのように骨が砕ける音が響

く。

そして全身の関節という関節が曲がってぐしゃぐ

しゃになる。


そして、血が噴き出るとそのまま小さな石へと吸

収されるように変貌していった。


それは真っ赤な綺麗な石だった。

弘前の手の中で輝く宝石。


まだ小さいが、あきらかに輝きが違う。


「気になるかい?賢者の僕が生命を繋ぎ止める為

 に作った魔力石だよ。神崎くんの身体はここか

 ら出したら崩れてしまうからね。これさえ完成

 すれば自由に動けるんだ」


弘前の見ているのは、ただ静かに眠るような神崎

だけだった。


「向こうの世界は僕には地獄だったよ。誰も同じ

 人間に逆らえない。逆らえば殴られ、誰も助け

 てはくれない。君には分からないだろうね?た

 だ傍観しているだけのモブなのだから……実際

 に痛みを感じるのは当事者だけなんだよ………

 こうやってね」


日比野に向けられた杖の先が不意に動く。


すると、さっきまで何もなかった左腕が一気に捻

り上げられたのだった。


「うぁああっぁぁぁーーー」

「痛いかい?このくらいこの世界ではなんともな

 いんだよ?だって……ほら?」


さっきまでいきなり腕があらぬ方向へと曲がって

強烈な痛み走っていた。

が、それが急に止むと普通に動かせる。


「これは……」


不思議に思うと手を動かしてみる。

なんともなかった…。


「これの方がわかりやすいかな…よーく見てるん

 だよ?」


ヒュンッ。


と風を切るように何かが通り過ぎた。

まるで何かが触れた気がした瞬間、腕の先から血

が噴き出ていた。


見ると、腕の先がない!


音もなく、何が通ったかすら分からなかった。


あっという間に腕を切られ、床の上にはさっきま

で日比野についていたはずの手が転がっていたの

だった。


「痛い…痛い…痛い………」

「痛い?でも、これじゃ〜人間は死なないんだよ、

 わかるかな〜?」


小さな小瓶を手に取ると腕の先にかけた。

すると一気に痛みが引いて、さっきまで無くなっ

ていたはずの腕が生えていたのだった。


「どうして……?」

「そうだな〜、ちょっとチャンスをあげる事に

 しようか……もし、裏切れば……腕じゃ済ま

 ないかもね……」


ゴクリと唾を飲み込むと手足が震えている事に

気づいた。

日比野は弘前を眺めながら、ここに来た事を後

悔したのだった。


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