第四話 暴力の矛先
廊下をすれ違う長野達の不快な笑い声に誰もが
嫌気がさしていた。
「それでさぁ〜その女がさ〜すぐに股開くから
さ〜どんなもんかなって思ったら、意外と処
女かってくらいに顔真っ赤にしてさ〜」
「それもいいが、毎日だろ?いい加減にしない
と…」
「大丈夫だって、後腐れねーし?それに縋り付
いてきても、ダンジョンで放置してくればい
いだろ?お前の夏美みたいにさ〜」
「違いねー」
上島と江口の言葉に長野が眉を顰めた事に誰も
気づかない。
二人は娼館での話で盛り上がっていた。
横を素通りしようとした日比野は、さっきの話
に少なからず動揺していた。
夏美といえば加藤夏美。
彼女は長野と付き合っていると噂されていた女
子だった。
それをダンジョンに置いてきた?
自分の彼女を護るでもなく、置き去りにしたと
いう事だった。
それでは、一緒に入った仲間はどうなったのだ
ろう。
話では戦って死んだと言っていたが、それもど
うにも怪しかった。
「おい、お前……」
「……!?」
長野の声が日比野の足を止めさせた。
手に持ったランタンがプルプルと震える。
「どこにいくんだ?まだ明るいだろう?」
明るい時間にランタンなど持っていく場所など、
普通考えつかない。
そしてこの城の中では暗くなると自動的にあか
りが灯る。
ランタンの活躍場所といったら、灯りのない部
屋か外にいく時くらいだった。
「えーっと、ちょっと城の中を探検………かな」
「その手に持ってるのは灯りか?どうしてそん
なもんがいるんだ?こいつ何か隠してるな?」
長野の勘は意外と当たる。
自分が嫌われていることは知っている。
だからこそ、こそこそとしているやつは嫌いだ
った。
日比野は弘前や神崎のようにもっと自分に自信
を持ちたかった。
誰かに従うだけの駒になどなりたくない。
せっかく魔法の使える異世界へ来たのだから、
ここで変わらずして、いつかわれるというのだ
ろう。
「別に僕の自由だろ?君達はダンジョンを攻略
したかもしれないが、僕らだって日々訓練し
てるんだ」
「ほう?こいつ生意気な口を聞くんだな?クラス
では大人しくしてたくせによぉ〜。ここなら俺
らに勝てるとでも思ったか?」
「違うっ!ここでは全員が対等なんだ!」
日比野が言うと、真横を炎が通り過ぎていった。
「誰が対等だって?俺とお前か?」
「………」
頬を掠めたせいかヒリヒリと痛い。
「舐めた真似した分、お仕置きが必要か?」
「おい、ついて来い。来ないなら他の生徒を
見せしめにしてもいいんだぞ?」
そうだった。
こいつらはそう言うやつだった。
仲の良い友人を狙って攻撃するような卑怯者
なのだ。




