第十七話 奴隷の決意
ナルサスが部屋に戻ってきた時には、神崎は疲れ
て眠っていた。
「俺のご主人様は警戒心がないと言うか、無防備
と言うか……全くこれでは危なっかしくてしょ
うがないな」
はにかむ様に笑うと汗をかいたであろう服を脱が
せる。
眠っていると余計に幼く見える。
12歳と言っていたはずだ。
ナルサスからしたら、子供同然の年齢だった。
今年でナルサスは38歳になる。
見た目はイケメンだともてはやされたが、奴隷に
なってもう何年も経っていた。
いっそ死刑にしてくれた方がマシだと、何度も思
った。
だが、こんな日が来るのなら、生きていてよかっ
たと思える。
この頼りない主人をあるじとして遣えるのも悪く
ないと思えた。
甘ちゃんで、人を殺せない様なそんな弱い主。
だが、戦闘では戦えないなりにもちゃんと考え
ていて状況がしっかり見えている。
どうしようもないと思われていた敵への対処も
なかなかだった。
切れないならアイテムボックスに入れるなど思
いつきもしなかった。
やっぱり異世界人だからだろうか。
考え方が予想外だった。
カルダが滅んだ時も、意外な戦略と火力で押し
切られた。
裏で賢者が関わっていると噂が流れていた。
賢者はどこの国にも属さないし、肩入れもしな
いと言われていた。
それがどうしてその時だけ、知恵を貸したのか?
もし、あの時に戻れるのなら。
もし、あの時に戻って、神崎を連れて行けるの
なら。
きっと負けなかっただろう。
この小さな肩に、大量殺人という重みを背負わ
す事になっても、きっと勝つ道を探っただろう。
「奏があの時いてくれたら………俺は今頃どうし
てたんだろうな……」
濡らしたタオルで身体を拭いてやると布団をかけ
てやった。
ナルサスも自分の身体を拭くと横になる。
どう見ても幼い幼女にしか見えない神崎を見下ろ
しながら髪を梳くってやると、甘える様にすり寄
ってきた。
まるで小動物を見ている気分になる。
「ぷっ……可愛すぎだろ……」
人は決して善人ばかりではない。
エリーゼの様に奏を大事に思って心配してくれる
人間など普通はいない。
こんな甘い考えの人間はいつか淘汰される。
裏切られてボロボロになるだろう。
ナルサスは神崎がそうならないように近くで見守
ろうと決意したのだった。




