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第十四話 囮作戦

さてどうしたものか……。


まだ水に中にいると分かっていても渡るのは危険

極まりない。


「よし、奴隷!お前がいけ!」

「はぁ?いきなりなんでっ!」

「カナデに行かせるわけには行かないだろう?

 奴隷なら替えは効くしな」


囮になれと言っているのだった。


水面下にいる何かは今までの比じゃない。

何かやばいのがいる気がする。


それを引き摺り出すのに、囮になるなど冗談では

なかった。


が、これもナルサスには拒否権など元々なかった。


「待ってよ!危ないんでしょ?エリーゼさん、他の

 方法を…」

「カナデ、これ以上待っても相手も出てこない。な

 ら囮を使って引き摺り出したところを私が真っ

 二つにしてやるつもりだ。だから安心して奴隷

 は奴隷らしく喰われて…囮りになりなさい」

「って今喰われてって……」


安心という言葉をこんな風に聞くもんじゃないと

思う。


「だったら……俺からも提案させてよ!」


言い出した神崎は自分の防御バフだけでもしっかり

かけさせて欲しいと願い出たのだった。


もし、奴隷といえど身近な人が亡くなるのを見たく

はなかったのだ。


「だが……」

「それは…さっき倒れたばかりなんだぞ?」


「それでもっ!俺はナルサスを犠牲にしていいなん

 て思わない。俺も同じリスクを背負うべきだと思

 うからっ!そうじゃないとこの作戦は認めないか

 らなっ!」


黙りこくってしまった二人を尻目に睨みつける。

まだ齢12才が睨みつけたとて、迫力などない。


可愛い顔して頑固な神崎に二人は折れたのだった。


「分かった、だが決して無理はするなよ?」

「俺は奏が言うなら逆らえない。分かったお願い

 する」


やっと自分の言う事を聞いてくれたと喜ぶと、す

ぐに真剣な顔つきになった。


「じゃ〜かけるよ……身体強化、防御力上昇、防

 御力上昇…」


ナルサスの身体を覆う様に光の膜ができていく。


「じゃ〜行くかっ!」

「あぁ、しっかり囮をしろよ?」

「分かってますが…しくじらないで下さいよ、先輩」


ナルサスはエリーゼを見ると拳を出した。

コツンとお互いぶつけ合うと、一気に走り出した。


飛び石になっている足場を走り出すと、丁度中央ま

で来たあたりで水面が一気に盛り上がって来る。


さっきの比ではなかった。


出てきたのは体長5mはありそうな大きさの魚だっ

た。


まるでひとのみにされそうなくらいにでかい。

どこから出てきたのかと思うくらいの大きさに少し

躊躇してしまいそうになる。


そこはエリーゼ。

場数を踏んでいるせいか落ち着いていた。


「エリーゼさんっ!身体能力向上、刀身強化、鋭利

 追加…」


エリーゼ自身の身体能力を飛躍的に高め、剣が折れ

ないよう追加バフもかけた。


一瞬の出来事だった。


顔を出した青白い鱗の化け物が中央にいたナルサス

を一飲みにした瞬間、エリーゼの刃が瞬く間に切り

刻んだのだった。


もう、見事なほどに綺麗に肉がバラけると一瞬で切

り身になっていた。


一緒に切られたはずのナルサスはというと、中から

五体満足の状態で出てきたのだった。


「うわぁ〜、俺、死んだかと思った………」

「だから大丈夫だと言っただろう?」

「そんな言葉信用出来るかよっ!奏、ありがとな」

「うんっ!」


これも全部普通じゃないバフのおかげだった。




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