第十四話 賢者の思惑
初めてのダンジョンに潜った次の日から、やる気の
違いが出始めたのだった。
あの戦いで、全く手が出せなかった事に悔しがるメ
ンバーと、その逆にダンジョンへの恐怖に囚われ、
練習をも拒絶するグループに分かれたのだった。
一度星の雫がドロップしてしまったダンジョンでは
もう同じものはでない。
なので賢者としては他へと行きたいところだった。
他人の恐怖を取り除けるのは自分だけで、他人がと
やかく口出ししても仕方がないと言う事は分かって
いる。
同じクラスの情けで今回は助けたけれど、もう次は
ない。
「さぁ、僕からの最後の授業ですよ〜!恐怖の取り
除き方です」
そう言い放つと、一斉に視線が集まった。
「恐怖はどこからくると思いますか?相手が強いか
ら?それとも自分が弱いからですか?」
「……」
「どちらも不正解です。君たちが臆病で護るものが
ないからです。例えて言うなら……イジメがクラ
スにあったとしましょう。そこに見て見ぬふりを
するか、強いものに立ち向かっていくか?君たち
はどっちですか?」
「イジメって……そんなの……」
一斉に動揺したのがわかる。
それもそうだろう。
このクラスでイジメがあったのは事実だった。
それに目を瞑って来た奴らなのだ。
自分の時も、神崎の時も……。
「立ち向かえる者はきっとすぐに克服出来るでし
ょう。ですが…見て見ぬふりをして逃げて来た
者に明日はな いと言う事です。戦えない者に、
明日が来るほどこの世界は生優しいものじゃな
い。以上賢者からの忠告でした〜」
それだけ言うと、杖を出した。
そして霧のように姿を消したのだった。
正確には見えないように反射と屈折を利用しただ
けだった。
そして、ゆっくりと部屋を出ていく。
だが、生徒たちには消えたように見えただろう。
だって、ここは剣と魔法の世界なのだから……。
弘前はそのまま部屋に閉じこもってしまった。
まだやることがある。
でていくのはそれからだった。
人知れず研究を繰り返し、自分の手足となる魔獣
を作る。
それの材料には生きた人間が必要だった。
夜な夜な奴隷を買っては城に戻って来た。
買われた奴隷はどこへ行ったのか、それは賢者のみ
が知っている。
「いつかあいつらを始末して会いにいくよ……神崎
くん」
キメラ実験は最終段階にまで来ていた。
夢の中で続けて来てよかった。
召喚陣のせいでバラバラになってしまった身体を
作ってあとは精神を取り戻せば元通りになる。
いつかきっと、再び会える日が来る。
ここは魔法が使えるなんでも出来る世界なのだ。
やっとこの世界に来たのだから……全てを手に入れ
てみせる。
無くした友情も、全て元に戻せるのだ。
また1から作ればいい。出会うところから記憶さえ
も…。
賢者と呼ばれ知識の宝庫である城の蔵書をいくつ
も読み漁るように知識を貪る。
それを許された存在なのだ。
それが賢者と呼ばれる存在なのだった。




