第三話 賢者の事情
召喚リストに目を通すと、クラスの名前が書かれて
いた。
こちらの人間には、向こうの文字は読めないらしい。
弘前にはどちらの文字も読めるので苦労はしないが、
他の人は違う。
「こちらが今回召喚されて残った異世界人のリスト
になります」
「ありがとう、えーっと……神崎、神崎………?」
確かにあの時、魔法陣の中にいたはずだった。
そのまま召喚したはずだから、同じ場所に召喚され
るのが普通だった。
「これだけしかいなかった?もう一人いなかった?」
「はい、全員で31名です。11名はダンジョンに向か
いましたから、今訓練場へと案内させたのは残り
の19名になります。合流いたしますか?」
「いや、いい……これからは賢者として生きていく
よ。ご苦労だったね」
「いえ、賢者様のおかげで我が国にこれほどまでに
異世界人を呼べるなど滅多にありません。感謝し
きれないほどです」
そう、異世界人の召喚とはそれほどまでに難しい事
なのだ。
そもそも一方から呼ばれたとて、ただ魔力を消費し
て終わる。
だからどこの国でも、召喚の儀は成功することが少
ないのだ。
成功しても数名呼べればいい方だった。
なぜ異世界人にこだわるのか?
それは異世界人特有のスキルにあった。
この世界では魔法もありのファンタジー要素が多い。
だが、レベル制限があり99で打ち止めなのだ。
だが、異世界人はそれを越えられるのだ。
王族には、魔法、剣術とあらゆる分野で武力を極め
る事が出来るが、平民は一個に特化した場合が多い
のだった。
属性も一個だけ。
だが、異世界人は稀に二属性を持つ者もいると言う。
そして賢者である弘前は光属性と、水属性の二属性
持ちだった。
「さすが賢者様です」
「そう?まぁ、居ないなら仕方ないね……置いて来
ちゃったか、それとも空間の狭間に落ちたか……
もう会えないのは残念だよ」
「誰か探しておられるのですか?」
「いや、もういいよ。それでは、訓練は君達に任せ
るよ。僕はいつもの部屋を使わせてもらうよ」
「はい、部屋はそのままにしてあります」
そう、夢の中で毎晩、毎晩来ていた王宮は何も変わ
っていなかった。
いつもの部屋には、自分が使っていた道具や衣服が
入っていた。
黒いローブを身につけると制服を脱いでしまってお
いた。
もうどうせ二度と戻る事のない世界だが、一応は思
い出というやつだ。
クローゼットごとアイテムボックスへと仕舞うと背
伸びをした。
治療院で傷は治してもらったが、身体が怠い。
傷は跡形もなく綺麗になっていた。
「やっぱり魔法はすごいな……そして僕もこれから
使えるようになるんだ……ふっふっふ、最高だ!」
夢の中だけの世界だったのが、現実になったのだ。
これほど嬉しいことはなかった。




