第三十七話 王の趣味
まるでボロ雑巾のようになった神崎を放り投げる
とそこで大会が終了した事を知らせるゴングが鳴
ったのだった。
呆気に取られて何も言えなくなった観客の中で、
『おぉぉぉーーーーーー』
という甲高い声が上がった。
それに呼応するように歓声が上がる。
今回も王の圧勝だと。
観ている人の中にはおかしく思う者もいた。
前の試合んで敗北を期したブレイズだった。
「こんなの試合とは言わねーだろ……魔法を使え
ないようにされてりゃ意味ねーよ…」
「分かっているのは君くらいだろうね」
横にいきなり現れた弘前の声に、少し驚くと、腕
を組み直した。
「あのままでいいのかよ?」
「よくない……けど。今は……いいかな」
「友人じゃないのか?」
「大事な人だよ。でも、彼はちょっと甘いんだ。
まだ人を殺せない。このままでは生きていけ
ないんだよ」
意外なほど冷静な弘前にブレイズは想像と違っ
ている事を知った。
「あいつも可哀想だな…お前みたいな友人がい
るなんてな……残酷なやつ」
ポツリと漏らすと踵を返して帰っていった。
弘前の目には舞台の中央にいる男しか目に入って
いなかった。神崎を足蹴にしたあの男の姿を睨み
つけると、すぐに作戦に取り掛かった。
もちろん、成功法で王が倒せるとは思ってはいな
かった。
なら、どうするか……。
王が一人になる瞬間。そして油断している瞬間を
狙うしかない。
それは、安全な場所で、好きな事に没頭している
瞬間だった。
今夜動くだろう。
そう思うと、弘前はユニコーンに事情を説明する
と、嫌々ながら承諾させた。
主と繋がりのある契約獣なら主のいる場所が分か
るのだ。
夜が更けていく頃に暗い地下牢で目が覚めると、
鎖に繋がれている自分の姿を目視した。
「ここは……」
腕を見たが、しっかり治っている。
折られた時は凄く痛かったが、今はなんともない。
周りには誰もいなかった。
「まじかよ……しっかり鉄の鎖で繋ぎやがって…」
これでは抜け出せなかった。
神崎は周りをよく観察して、やっと窓がない部屋
を思い出す。
ナルサスが入っていた地下牢に似ていた。
「奴隷に売られたわけじゃないよな…」
「残念だったな。神崎奏くん。君は私の玩具にな
るんだよ。あれ?腕が治ってる?」
いきなりの声にギョッと振り返るとそこには昼間
見た王の姿があった。
自分で折った腕を見ると、不思議そうに眺めてい
た。
「確かに折ったはずだが……君は何者だ?」
「あんたが一番よく分かってるだろ?異世界人の
子孫なんだろう?」
神崎の言葉にふむっと顎に手をかけると悩み混む。
「だが……身体の傷もなくなっているなど不思議
なんだ……いっそ切り刻んでみるのもいいかも
しれないな?」
「なっ……」
王の言葉にギョッとする。
切り刻む?
それは生きたままという意味だろうか?
冗談じゃない。
そんな事されて平気なわけはない。
傷ができれば痛いのだ。
側に置いてあったナイフを取り上げるとボロボロ
のシャツを切り裂いてきた。
ビリビリビリッっと破くと白い肌が見える。
それは傷ひとつなく、王には不信感が芽生える。




