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第三十六話 罠

温泉は気持ちいいし、食材も豊富だった。

料理のレパートリーも増えたし、いい事ずくめと

言いたいところだが、今日は今から王様との腕試

し的な試合が行われる事になっているのだった。


昨日と同じ会場に着くと、ごっつい鎧を身に纏っ

た男性が待っていた。


威厳と貫禄を備え持ったその男性こそが大和の国

を束ねる長なのだ。


黒髪なのは異世界人との交わりで産まれた子供で

ある証だった。


「紹介が遅れたな……私はこの国の王で大和カズ

 ヒロという。其方は名をなんと言うのかな?」

「カンザキ……神崎奏です」

「そうか…昨日の試合を観ていたが本当に強いん

 だなぁ〜」

「どうも〜」


無敗の対戦相手から褒められても嬉しくなかった。


「それで相談なんだが…」

「負けてくれって言うのいは無しです」

「違う違う。別に負ける気はないし…そうじゃな

 くてね…君は…………って聞きたくてね」


軽口を叩いていたはずの会話が一瞬で意味を変え

たのだ。


『君は異世界のどこから来たのかなって思ってね』


ばれている!?

いや、そうじゃない。

試されている?


弘前も黒目黒髪だ。

それが二人も同時に来るのだから異世界人の子孫

とどこかで思われるているのだと思っていたが、

そうではない事もあるのだ。


ピンポイントに聞かれたら答えに躊躇いを感じて

しまう。

多分それがいけなかったのだろう。


「そっか。本当に異世界から召喚されたってわけ

 かぁ〜ってことは最近だと…アルスラ帝国って

 とこかな…」


あながち間違いではなかった。


「そっかぁ。あそこには賢者に受け継がれた者が

 いたはずだけど、きっと手を貸したんだろうね」


何もかもお見通しとでも言わんばかりだった。

こんな離れた国にいてもそこまで見通せるのか…

そう思うとゾッとする。


「王座を手放す気は?」

「ないね。君がどんなに強くても負ける気はしな

 いからね」

「では、ダンジョンを攻略させて欲しいと言うの

 は?」

「それは困るかな…だって君たちはダンジョンコ

 アまで壊す気でしょ?国の収入源を奪われるの

 は許容できないかな」


全て見通されている。

そう思うと弘前が言ったように力づくで勝つしか

なかった。


「あぁ、それと言い忘れていたけど…王である俺

 と戦えるってことは逆に言えば負ければ反逆罪

 で死刑だって知ってて受けたんだよね?」

「はぁ〜?そんなの…聞いてない」

「今知ったからいいじゃないか。どちらかの死で

 しか終わりはないと言うことだよ」


ニッコリと笑われると、神崎は観客席の弘前を振

り返ったのだった。


お前は知っていたのか…と。


そんな会話をしている最中、始まりのゴングが鳴

り響いてきた。

もうあと戻りはできなかった。


生きるか、死ぬか。

ただ勝てば王様。

そんな単純な話があるはずなかったのだ。


代替わりということは前王を亡き者とする。

そんな結末があるとは露にも思わなかった自分を

恥じた。


甘かったのだ。

誰も傷付かず済むはずなどなかった。


考え事をしていたせいで動きが一瞬遅れた。


すぐそばまで来ていた大和カズヒロに気付けず目

の前の拳を避けることもできず、まともに喰らっ

てしまった。


吹き飛ばされるのを必死に受け止めるとなんとか

ギリギリで耐える。


「こんなの反則だろ…ごほっ…げほっ……」


重い拳に腹の奥が痛い。

肋骨が折れたのか咳き込むと口からは血が

流れ落ちる。


息苦しい…一発くらっただけでこれかよ…


すぐに痛みは引き、立ち上がった。


「へぇ〜まともにくらってまだ立てるんだぁ〜

 肋骨折れてるんじゃない?痛いでしょ?」

「別に…このくらい平気……」

「我慢強いんだ〜でも、そのまま戦えるかな?」


全く加減をする気がないのか再び走り出してくる。

止まらない攻撃に神崎は防戦一方だった。


魔法を使おうにも全く魔力が反応しない。


さっきから何度も自分の中の魔力を探っているが、

一向に出ない。


「あんた…俺に魔力を使わせたくないのか?」

「へぇ〜気づいたんだ…でももう遅いよ」


やっぱりなにかおかしいと思っていたのだ。

今日来てから結界の感じが昨日とは違っていたの

だ。

そう、今日のは昨日と違って観客を護る為の結界

ではなく、内側で魔法を使えなくする物だったの

だ。


そして肉弾戦を得意とする王が無双する為の舞台

なのだった。


「そうやって王座を手に入れたのか?」

「あぁ、魔法を打つしか脳がない先代は哀れだっ

 たぞ?」


そうだろう。

今の神崎と同じなのだろう。


ボロボロになっていく身体は全身痛みで耐えてい

るのが精一杯だったからだ。


わざとリングの外へは出さなかった。

倒れ込む神崎を掴み上げると何度も殴り飛ばす。

床に這いつくばって起きあがろうとするのを嘲笑

うかのように腕の上に足を乗せると、思いっきり

反対へと折り曲げてきたのだった。


「ぅああぁぁぁぁぁーーー」

「ここでそのまま死ぬのと、牢に入って後から処

 刑されるのとどっちがいい?選ばせてやるよ」

「死にたくない…こんなところで死にたくない…」

「わかった。後で泣き叫びながらゆっくり痛ぶる

 事にしよう」


そう言うとリングの外に投げ捨てたのだった。

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