第三十五話 明日に向けて
会場中が静まり返り、その場の全員が一瞬息を呑
んだ瞬間だった。
そして、一気に歓声が上がったのだった。
「参った……降参だ」
首元に突きつけられた切先に、ブレイズは冷や汗
をかくと両手を上げたのだった。
横の少年はまだ納得していない顔をしていた。
「まさかマジックバッグとはね〜」
「友人が作ってくれたんだよ」
「羨ましい友人だぜ。もしかして隣の彼かい?」
「あぁ、でも、最初の試合でブレイズは嫌われた
みたいだね?」
「まじかーーー。あれは、初見でしか使えねーし
それに……あんたには使えないみたいだからな」
「……?」
使えないの意味がわからなかったが、弘前にも
同じような事を言われた気がしたのだった。
優勝者には金一封と明日の王様との一騎討ちの権
利が与えられる。
ここで辞退する事もできるが、国そのものが手に
入ると言うので、普通は参加する事が多いらしい。
「あんたはどうするんだ?」
「もちろん受けるよ」
「そっか、気をつけろよ。この大和の国の王は化
け物らしいぞ?」
「……まっさかぁ〜」
冗談っぽく笑うブレイズに神崎は本気にはしなか
った。
「おつかれ、神崎くんおめでとう」
「うん、ちょっと焦ったけどね」
そういうと服の至る所が破れていた。
傷はすでに治ってはいるが、自然治癒を見られな
くてよかったと安堵したのだった。
見応えのある試合に、今日の話題の人となった。
温泉に入っている時も、ジロジロと見られて落ち
着いてはいれなかった。
「もう、なんなんだよ〜。ずっとジロジロと見ら
れて……落ち着かないだろ」
「仕方ないよ。もしかしたら歴史的瞬間を見られ
るかもしれないんだからさ。」
弘前がゆっくりとした口調で言うと、髪を拭きな
がら首を傾げたのだった。
「わからないの?神崎くんがもしかしたら明日勝
って王になるかもしれないんだよ?王はこれま
で負け知らずで、身内から出ていたんだよ。」
「ん?だって3年に一回大会をやるんだろ?それ
に勝ったら王になれるって言ってなかったか?」
「そうだよ?でもね、ずっと防衛して来たんだ。
そして唯一負けたのが身内だったんだよ」
「……」
「だから、負けなしなんだって……」
若いうちに引退するとはそう言う事だったのだ。
身内で強い者だけが王となる資格を得る。
それが大和の国なのだ。
それが明日、もしかしたら余所者に初めて土をつ
けられるかもしれないのだ。
そんな歴史的瞬間に立ち会おうと、こぞって押し
寄せて来るらしい。
「うわぁ〜俺、辞めたくなって来たかも……」
「はい、今日の分の魔石。しっかり食べておいて
ね」
「ちょっ……なんか多くなってない?」
「魔法いっぱい使ってたでしょ?その分追加して
おいたからね!」
有無も言わさず押し付けられた魔石はずっしりと
重かった。




