第三十三話 懐かしさ
新メニューを作り上げるとレシピを書き留める。
食材も珍しいものが手に入ったおかげで、新しい
メニューもどんどん増えそうだった。
朝の分と合わせて数日分をまとめて作り置きして
おいた。
弘前から貰った鞄に入れるような形で、実際はア
イテムボックスに入れておく。
マジックバッグとアイテムボックスの違いは入る
量の他に、時間の流れがあった。
マジックバッグはどうしても中に入れたものは劣
化してしまう。
それに比べて、アイテムボックスは全く時間の流
れがない為、暖かいものを入れれば何日経っても
暖かいままだった。
「さぁ、ご飯が終わったら温泉行こう〜」
「そうだね。そうしようか」
神崎は温泉が気に入ったようだった。
低料金で入れる為、住民はよく利用しているらし
かった。
旅行客も、一度使うと病みつきになるらしい。
「絶対にこれは日本人が作らせたよな〜」
「そうだろうね〜。毎日お風呂に入る文化って
日本ならではだし」
『主よ、日本とは何だ?』
「あぁ、ユニは知らないんだね。俺たちがいた
世界で住んでいた国の名前だよ」
小さな島国で、黒目黒髪の人間ばかりがいた国
だと説明したのだった。
『まるでこの国のようじゃな』
ユニに言われた通りだった。
この国には黒髪の人間が多くいた。
目の色はさまざまだったけど、それでも黒っぽ
い人が多いのは懐かしい気がする。
異世界人と交わって、たくさん子供を作ったの
だろう。
そう考えると、滑稽な気がして来た。
崇めるほど偉いわけでもないのに、それを崇め
たりして……。
異世界から人を召喚する事自体をやめさせるべ
きだろう。
そう、それが正常な状態なのだ。
神崎は、世界を正しい状態へ戻す事を心に誓っ
たのだった。
弘前は神崎と一緒に温泉に入るのは久しぶりだ
った。
昨日も入ったが、裸を直視できなかった。
細胞から作っていた時は、裸の神崎をなん度も
見て来たはずだった。
だが、実際に本人の魂が宿ったと知ると、なか
なか触れられずにいたのだ。
精密検査とばかりに何度も触れて来た身体なの
に、今はそれが出来ない。
身体から出る分泌液を取っては、たまに検査し
ていたのだが、最近はそれが出来ていなかった。
作られた時よりも筋肉がついて来たと思う。
引き締まった身体は理想的な肉体美を持つ。
「神崎くん。最近身体の調子が悪いとかある?」
「ん?……別にないけど……」
「そう………ならいいんだ」
「まさかメンテナンスが必要とか?」
「いや、そんな事はないよ。ただ、毎日魔石を
ちゃんと食べていれば問題ないはずだよ」
朝食事と就寝事に袋に詰め込まれた魔石を口に
入れる。
美味しいものではないだけに、いつも苦戦して
いるのを見ていた。
明日、勝って王との挑戦権を得られればダンジ
ョンへと入る許可がでる。
そこで最後のカケラさえドロップすれば胸の
石を壊して元の身体へと戻れるのだ。
あの神と名乗った者の言葉があっていればの話
だが……。
「早く戻りたいな……一人の夜は、もう嫌だよ」
一人呟くと横になった。
大きなベッドで一人で眠るとシーツがヒヤリと
して、どうしても落ち着かなかった。




