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第三十二話 精霊の力

部屋に帰るとキッチンを使わせてもらう。


気になる食材を試す為だった。

本物の神崎は料理も上手だった。


味もそうだが、テキパキとした作業がサマになっ

ている。


手慣れていると言うのが正しい表現だろう。

いつも一人だったせいか、自炊も慣れたものだっ

たのだ。


じっと後ろから眺めるユニコーンは、それを寂し

く思う。

好きでやっているわけではない。

それがわかるらしかった。


「ユニは好き嫌いは?」

『我には味に好みなどない。ただ……主の作った

 ものはなんでも温かく美味だったんだ』


主とは前の神崎の事だろう。

今は子犬のような大きさになっているが、実際は

でかい身体の魔物だ。


ルイーズ領を出る時に、背中に乗せて貰ったが、

あれが本来の大きさなのだと思うと、少し怖く感

じたのだった。


ザクザクと野菜を切ると煮込んでいく。

味付けは持っていた調味料に買ったものを足して

作る。


ぷ〜んとお腹を刺激するような匂いがすると、隣

の部屋から弘前が出て来た。


「美味しそうな匂いだね」

「もうすぐできるよ」

「楽しみだよ。こうやって神崎くんの手料理を食

 べるのはいつぶりだろう。」

「そうだな……始業式以来じゃないかな…」

「そうだったね」

「……さっきの話だけど、ブレイズの力って何だ

 ったんだ?」

「それはね……」


ブレイズと対峙して一瞬の事だったらしい。

魔法を打つ前に、試合は終わっていた。

正確には、何も見えなくなっていたと言うのが

正しい表現らしい。


試合開始の合図があると、隣では神崎の方に一斉

に向かって行った。

チラリと横を見てから魔法を撃とうとした瞬間。

いきなり消えたと言うのだ。


気がつくと、港の付近にいたという。

その他の男達も、この島の各所に飛ばされてしま

ったという。


慌てて戻って来た時には試合は終わり、神崎が呼

ばれ、次の大戦へと進んでいる時だったという。


「それって瞬間移動って事?」

「いや……あれは精霊術だな。神崎くんが見た子供

 はきっと精霊だろう。ただどんな力があるかまで

 は見抜けなかった僕が悪いんだ。最初に手を握っ

 た時に気づくべきだった。」


そう言うと悔しそうに拳を握りしめたのだった。


「手を握ったのが原因って事か?」

「あぁ、多分、それがトリガーになっていたんだと

 思う。飛ばされる瞬間、確かに見たんだ。右手に

 紋様が出て、座標が変わったのがね」


魔法とはまた別の力が働いていたせいで防ぐ事が出

来なかったらしい。


「でも、俺には効かないって言うのは?」

「あぁ、それは…神崎くんは人じゃないから。作ら

 れた存在で、実際には精霊術が通じないと言うべ

 きかもね。だから、きっとブレイズについている

 精霊からは嫌われていると思うよ?」


確かに、怖がられていた。

そして、危険な存在という認識をされていたのだっ

た。


それはただ単に自分の力が通じない存在だったから

なのだろう。


精霊の力の源となっていた世界樹はもうない。

だからだろう、精霊は力を使えば使うほどに弱って

行くという。


弘前にはそれがどう言う事かわかっているようで、

これからの末路を示唆していた。


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