第三十一話 決勝への道
第三リーグの方をみると、普通に剣を交えて戦っ
ていた。
時折り魔法が飛び交い、かわしたり叩き落とした
りと苦戦を強いられていた。
舞台から降りると、ブレイズも降りて休憩室へと
向かったのだった。
「さすがだね」
「いえ、そちらこそ。一体何をしたんですか?」
「ん〜〜〜、内緒。」
ちゃめっけたっぷりの笑顔を向けると手を差し出
してきた。
「次はよろしくな!」
「こちらこそ…」
そう言って手を握ろうとした瞬間。
横から子供がブレイズを引っ張った。
『ダメ!この人、危険!触っちゃダメ!』
初めて聞いた声に、不思議と違和感を感じた。
「精霊って声出せるんだぁ……」
「聞こえたのか?あんたすげーな」
「普通は聞こえないのか?」
「あぁ、世界樹に愛されてないと精霊とは会話で
きないんだよ。俺も聞こえないしな。それで何
て言ってたんだ?」
「それは………」
言いにくい言葉だった。
俺が危険?
触っちゃダメ?
どう言う意味だろう。
「すごく嫌われちゃってるみたい…かな…」
「まぁ、こいつは人間はみんな嫌いだとよ」
少年の頭をポンポンと撫でると嬉しそうにしがみ
ついたのだった。
試合が終わると、第一リーグからは神崎一人、第
二リーグからはブレイズ一人。第三リーグからは
5名の強者が残ったのだった。
昼食を挟むと、弘前が帰って来ていた。
「あれ?一体何があったんだ?」
「あぁ、完全にやられたよ。あの野郎あんな卑怯
な真似して……」
完全にお怒りモードだった。
「昼食食べに行こう」
「ダメだ、何をされているかわからないからな」
結局、神崎が非常用に作っておいたご飯を昼に食
べる事にしたのだった。
午後からは、完全に一対一の個人戦だった。
そして第一試合には神崎と第三リーグで勝ち残った
一人がリングに上がったのだった。
ここからは観覧席に王様自らが見学に来る。
「ブレイズの戦いで気をつけることはある?」
「いや……ないよ。神崎くんにはあんな卑怯な真似
は通用しないからね」
「そっか……じゃー行ってくるよ」
「魔法で圧倒してやればいいよ」
「うん……分かった」
リングに立つと、開始の合図とともに、一気に氷の
礫を相手に放ったのだった。
リング全体に落ちるように連続で降らせる。
これには戦意消失したのか、自らリングを降りると
降参を宣告した。
それを見ていた他の対戦相手は、呆気に取られると
次々と降参していったのだった。
結局残ったのはブレイズと神崎だけになっていた。
明日が決勝戦の予定だっただけに、今日は時間が裕
にあいてしまった。
「屋台見に行かないか?」
「やめておこう、今日は風呂でも行って、ゆっくり
しておいた方がいい」
「そっか……」
大和の国の屋台はこの世界に来てから初めて見る食
材が多く使われていた。
味もそうだが、材料も気になっていたのだった。
またナルサスと一緒に来れるかな……。
黒目黒髪だから簡単に入国できたが、銀髪の少年
の姿ではかなりの金貨を取られる事だろう。
「食材なら買ってもいい?」
「神崎くん?はぁ…まぁいいよ。気になるのはど
れ?」
弘前はため息を漏らすと、財布を出した。
神崎が欲しいと言った食材を次々に買って行く。
料理は得意な神崎にはどれもが新鮮なのだろう。
すぐに手に取ると、欲しいと言うように見てくる。
こうやって見て回るのも悪くはないと、考えていた。
弘前はずっとこの世界が灰色に見えていた。
色はあっても、自分には全部が退屈でつまらない世
界だったのだ。
だが今は違う。
今までやって来た事は決して間違いではなかった。
そう思えた。
弘前には、向こうの世界も、こっちの世界も色褪
せたものだっただけに、今が一番充実している気
がしたのだった。
「ずっと、ここにいられたらいいのに……」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもないよ。神崎くん。買いすぎ
じゃない?」
「大丈夫だよ、弘前くんがくれたバッグがある
しね」
今は食材でぱんぱんになっている。
武器は、短剣、長剣、槍と各一つづつ入れてある。
破損した時の予備だ。
だが、魔法が使える神崎にはどれもがただの保険
でしかなかった。




