第二十九話 大会当日
神崎と弘前が入っていくと、一斉に視線が集まっ
てしまった。
なぜかいたたまれない気分だった。
「よう、昨日は凄かったな〜」
「えーっと、君は……」
「覚えてねーのか?昨日君に負けた冒険者だよ」
明るく話しかけて来たのは若い男だった。
昨日は前日よりも噂が広まったせいか対戦した人
の数が多くて全員は覚えていられなかった。
「覚えてないか?ブレイズ。ブレイズ・ウルマン
だ。よろしくなっ!」
「……あぁ」
あまりにも場違いなほど爽やかな青年だった。
神崎の目の前に手を差し出すと握手を求めてきた。
それが弘前には気に食わないのか、神崎が手を握
り返す前に先に弘前が前に出るとその手をとった。
「よろしく……、それと僕も出るから忘れないで
欲しいものだね」
「あぁ、君も出るんだね。昨日はただの仕切りし
かしていなかったからてっきり戦えないと思っ
ていたよ」
「そんな事はないよ。彼に戦い方を教えたのは僕
だからね」
笑顔なのに、なぜか寒い気がするのはなぜだろう。
お互い笑いながら腹のうちを探っているように思
えた。
「行こう、神崎くん」
「あぁ……うん」
ブレイズの後ろにはまだ幼い子供がついていた。
息子だろうか?
赤い髪の少年はずっとこっちを睨んでいた。
「あの少年も戦うのか?」
「まぁそうだろうね。ここにいる人は全員が敵だ
からそのつもりでね」
「……」
弘前の言葉に少し憂鬱になる。
ここにいる全員が国のトップを目指しているのだ。
それは誰一人として例外はいないだろう。
ブレイズという男は歳で言えば30歳くらいだろ
うか?
誰にでも話しかけていて、その場の空気を和ませ
ていた。緊張していた神崎にとってはありがたい
行為だったが、どう言う訳か弘前の機嫌が悪くな
る。
「どうかしたのか?」
「別になんでもないよ。それよりも、自分の事を
考えておいてね。怪我はすぐに治るといえど、
そんなところを他人に見せてはいけないから」
それもそうだった。
神崎の身体は人間と違う。
回復ポーションなどいらないくらいに傷はすぐに
塞がってしまうのだ。
森で戦闘していた時に、擦り傷を負った時も、
痛みはあったが怪我らしい怪我はなかった。
血は出るがすぐに塞がってしまったのだ。
まるで高級ポーションでも使ったかのような速さ
で治ってしまう。
これは誰かが見れば異常でしかないからだった。
「分かってる。怪我するなって事だろ?」
「勿論。それもだけど…接近させるなって事だよ」
「魔法の連発もやばいんじゃないか?」
「そうだね、だけど単体なら平気だよ」
ここに来る前に弘前に聞かれた事があった。
それは魔法の属性を一つに絞る事だった。
普通この世界に生きる人間は1属性が普通だった。
たまに2属性を使える人間はいるが、それは特殊
な訓練を受けた人間や、異世界人、もしくは貴族
の数少ない血筋で受け継がれた者に限っているら
しかったからだ。




