第二十八話 仕組まれた罠
前日の襲撃のせいで、すぐには寝付けなかった。
そもそも寝る必要のない身体とは聞いていたが、
いつもの習慣で横になる癖がついていたからだ。
横にはナルサスがいつもならいてくれるのだが、
今はベッドに一人だった。
「ナルサス、元気かな……ちゃんとご飯食べてる
かな〜」
突然倒れたのだから、驚いていただろう。
ケイヒードとラナも無事だろうか?
心配は尽きなかった。
二日目も難なく勝ち続けると最後には観客だけが
盛り上がっていたのだった。
明日は大会当日だ。
後には戻れない。
この国に着いて初日の夜に、侵入して来た不審者
はあきらかに神崎を狙っていた。
それも今日ついたばかりだと言うのに、こんなに
早く消しに来るものなのだろうか。
あまりにも不自然過ぎる。
まるで、神崎に殺させる為にきたとしか思えな
いタイミングの良さだった。
雑な魔力隠蔽だったし、足音を消しても姿を見
せていれば意味がない。
「やっぱりこれは……弘前くんが?」
信じたくないけど、どう見ても状況からそう考
えるしかなかった。
一緒にいるうちに、昔を思い出して懐かしかっ
た。
あの頃はお互い信じられていた。
なのに……それはいとも簡単に途切れてしまっ
た。
「あぁ……そうだな……早く送りかえさないと
な……」
この国で自由に動く為には、この大会で勝ち
続ける必要があった。
「そういえばここにもダンジョンがあるんだ
よな?」
「あぁ、あるよ。でも、よそ者には解放して
いないんだよ。」
「あぁ……それで…」
「うん、そう言う事。だから絶対に勝たない
とね」
絶対に王様にならないといけないわけではな
いのだ。
最後まで勝てば王様との一騎討ちまで行ける。
そこで交渉の余地もあるというものだった。
勝てば勿論この国で自由に動ける。
弘前が言った通り王となってダンジョンから
目的の石を持ち帰ればいいのだ。
ギルドの支部はこの国にもあるがあまり機能
していていない。
なぜならここに来る冒険者は有象無象といえ
どかなりの精鋭揃いだったからだ。
兵士に至ってもそれなりに強い。
ダンジョンから出てくる魔物を間引くのに苦
労する事はさほどないのだった。
夜が明けると大会会場は賑わいを見せていた。
ぐるっと円形に作られた建物の中で行われる
らしい。
観客も大勢集まっている。
それを囲むように多くの屋台も並んでいる。
時折り肉の焼ける匂いが漂ってくる。
「ちょっと食べていく?」
「やめておいた方がいい。相手を蹴落とす為
に何か仕込まれている場合もあるからね」
弘前に諭されると腕の中のユニが残念そうに
項垂れた。
受付を終えて待機室に向かう。
そこには昨日までに見知った顔がいくつも並
んでいたのだった。




