第三話 すげーじゃん
丁度その頃、クラスメイト達全員は見知らぬ城の大広間に
呆然と立ち尽くしていた。
正確にはそこに転移したというのが正しい表現だろう。
「なんだったんだよ、おい、弘前!お前っ……」
血塗れの弘前を捕まえようとした手は、いきなり目の前に
割り入ってきた鎧を着た男によって遮られた。
ふらふらと床に倒れそうになるところを支えられすぐに別
の場所へと運ばれていく。
残されたのは、事情もわからぬ生徒達だけだった。
「おい、ここは何処なんだよ!弘前の野郎何しやがった…」
苛立ちを抑えられない長野は周りの生徒へと八つ当たりを
する。
さっきまで床に惨めな姿でいた神崎が居ない事を知ると、
余計に苛立ちが増す。
「ようこそお越しくださいました。異世界の者よ」
透き通るような声が響き渡ると、厳重な騎士達に守られな
がら一人の女性が現れたのだった。
まるで何処かのお姫様のような長いドレスを身に纏い。
凛とした態度が、美しく見える。
「ここはアルスラ帝国。異世界召喚では最高でも5人しか招
かれないと聞いていたのですが、31名も居るとは…これで
安心です」
「おい、お嬢ちゃん!早く俺たちを帰してくれよ?ゲームじ
ゃねーんだから帰せないとか言わねーよな?」
長野の横にいた上島が言うと、女性は首を横に振った。
「今は帰す事はできません。ですが……ダンジョンを攻略し
『星の雫』を手に入れてくだされば、すぐにでも帰還させ
ましょう」
「その星の雫ってのはなんだよ?」
「それは……中に星の光が灯った宝石の事です。獣王国も狙
っているのです。それを先に手にれた国がこの世界を制す
ると言われているのです」
「ふ〜ん、で?それは何処にあるんだ?」
「ダンジョンにあります。最深部、誰も未だ到達できないエ
リアです」
そう言うと、水晶を持った女性達が現れたのだった。
「今からその水晶に触れてください。そこには個人の能力値が
表示されます。」
言われた通りに、各自順番に触っていった。
ー長野 仁 レベル10
人間。犯罪歴:アリ
炎に適正アリ。
ー上島 竜 レベル11
人間。犯罪歴:アリ
水に適正アリ。
ー江口 洋介 レベル9
人間。犯罪歴:アリ
筋力増加。
「おいおい、なんだよこれ……」
「まるでゲームじゃん?いっちょやってみるか?」
そう言って上島が側にいた女性が持っていた杖を奪っ
たのだった。
そのまま壁に向かって唱える『水よ。出よ!』と。
すると、勢いよく水が吹き出たのだった。
「おいおい、それ貸せよ!」
今度は長野が『炎よ!』と短く言うと目の前に炎が燃え
上がった。
他の生徒達の能力も見たが、これと言ってパッとしたも
のはなかった。