第二十六話 敵なしの強さ
口々に漏らすのは、『弱そう』という言葉だった。
それもそのはず、筋肉もさほどついておらず、ひ
ょろ長いだけの若い青年なのだ。
それも、勝ったら高級な毛皮が貰える。
冒険者なら飛びつかないはずはなかった。
この時期にこの国に来るという事は、みんな目的
は同じだった。
闘技大会……。
この国のお祭りのような行事だった。
三年に一回、行われる大会で、強い者を決める大
会だった。
そこで優勝すると、国王との一騎打ちができる。
それに勝てば、この国の新しい王となる。
それが、ここ東の大国大和の決まりだった。
その為、今、この国には強者が集まっていた。
「最初は俺でいいか?」
前に名乗りをあげたのはいかにも力自慢の男だっ
た。
体格も神崎よりも大きく、神崎が子供のように見
えた。
もちろん身長はさほど低い方ではないのだが、こ
こまで違うと、勝てる気がしない。
「本当に戦うのか?」
「練習にはいい相手でしょ?最初は弱そうなのか
らっていうでしょ?」
弘前の言葉を聞いた男が顔を真っ赤にしているの
が見えた。
「おい、言うじゃねーか?覚悟は出来てんだろう
な?」
「俺が言ったわけじゃ……」
神崎は短剣を握りしめながら風魔法を自分にかけ
たのだった。
「では、場外か、相手を気絶させた方が勝ち!で
は、戦闘開始!」
弘前の声に一気に男が向かってくる。
速さは魔法のおかげでゆっくりに見える。
男の武器は大きな大剣だった。
片手で抜くと縦横無尽に振り回してきた。
確実に殺す気で来ているとしか思えなかった。
「俺、まだ剣は苦手なんだってばっ!」
短剣を構えながら切先を微かに当てると受け流し
た。
軽い力で何度か剣を当てると横に流す。
簡単そうに、そして最小限の動きで交わしていく。
「おい、逃げてばかりじゃ後がねーぞ?」
「……」
そして、リングのギリギリまで来ると、大ぶりに
なった男の真後ろに素早く回り込むと思いっきり
後ろから蹴り落としたのだった。
「なっ……なんでっ…」
つんのめるとリングの外に思いっきり転がったの
だった。
息一つ乱さず、神崎は戦い終えると弘前を睨みつ
けたのだった。
「勝者神崎くん!では、次は誰が参加しますかー!
次からは参加費銅貨五枚!さぁ、相手になる人
はいますかーー?」
盛り上げる為に、大きな声を張り上げたのだった。
「次は俺だ!」
「いや、俺だろ!あんな無様な負け方はしねーよ」
「俺だろ!」
ワイワイと騒ぎが大きくなっていく。
魔法もありとなると、魔法師も参加する事になっ
た。
だが、魔法は神崎のが早かった。
魔法師が打つ前に魔法を放つと、誰もが即座に
降参したのだった。
剣や槍、リングが広いせいか飛び道具の参加も
見かけた。
結局飛び道具といえど、魔法で壁を作れば当た
らない。
神崎の敵にはならなかった。
「今日だけでかなり腕を上げたんじゃない?」
「そうかな?あんまり実感ないけど…」
「魔法もスムーズになってきたしやっぱり実践
は対人戦に限るかもね」
神崎は人間を傷つけるという事が、まだできず
にいる。
それは危機迫った状況で命の取り合いをしてき
ていないからに他ならない。
そんな危機迫る状況は滅多に起こらない。
しかし、強くなるには人を殺せるようになって
おく必要があった。
「さて、どうしようかな……アレを使うかな…」
小声で呟く弘前に、神崎は気づいていなかった。
宿屋に帰ると、食事を終えて近くの銭湯へと向
かった。
大きな浴槽にお湯が溜めてある。
そこには先ほどあった男達も湯に浸かっていた。
「銭湯があるんだ……」
「ここでは当たり前のようだね」
「お湯を沸かすだけでも大変なのに…」
「そっか、火の魔石を使っていたんだっけ?」
「そう、水を魔石で温めてから運んでくると結構
な重労働でね〜、魔石も大きさ次第で時間かか
るし、大きい物だと備え付けだから運べる分し
か温めれないから大変なんだよー」
湯船に半分を溜めて二人で入れば湯が増える。
そうしていつもナルサスと入るようになっていた。
湯が冷めると言うのもあったが、一緒に入った方
が効率的だったのだ。
「奴隷と一緒に入ってたの?」
「うん……」
「あの見た目で?」
「……う…うん」
わなわなと震える弘前に神崎は意味が分からなか
った。
だって男同士だよ?
問題ある?………と。




