第二十四話 生き残りの国
森の中腹にある泉で休憩すると、立ち上がる。
「ここから先は歩いていこうか。歩きながら魔法
の使い方を教えるよ」
「分かった」
このまま真っ直ぐに向かえば港に出る。
そこから海を渡って東の国に出る予定だった。
そこには異世界人の名残りがあり、黒髪の人間が
多くいると聞いていた。
「異世界召喚って結構あるのか?」
「いや、そうでもないよ。昔は数十年に一回召喚
されていたと記録はあるけど、それも大事にさ
れて子供を何人も作ったという話もあるくらい
だからね」
「何人も?」
「そう、男なら子種を欲しがる女性が多くて、多
くの子孫を残したとされているよ。その最たる
場所が今からいく東の国だよ」
東の国には異世界人、アジア人が召喚されその時
に何人もの女性がこぞって子種をねだったせいか
その子孫が多く出来たと言われている。
そのせいで黒髪の人間が多いと聞く。
しかしスキルは受け継がれることはなく、努力で
力をつけ、強い者がその国を統治をするようにな
った。
国の権力者は国最強だと言う事だった。
血筋で国の重役が決められてきた他国に比べてこ
こでは、力が全てだった。
三年に一回大きな祭りが開かれそこで大会がある。
ここで優勝した者が王と戦う権利が得られる。
そして、その大会が行われるのが今年だという。
「それってまさか……」
「そう、神崎くんが王様になれば自由にできるで
しょ?まずは小国といえどこの世界を手に入れ
る為に必要でしょ?」
「……」
弘前は全てを手に入れるつもりらしい。
それは世界を変えるということに他ならない。
「他にも俺達と同じように……」
「もうそろそろ全員居なくなる頃だと思うよ?残
ったとしたらそれは……ただの臆病者だよ」
「それはどういう意味?」
あの丸薬を使ったら最後、使わずには居られない
だろう。
使わなければ臆病風に吹かれて、一生つかわない
だろう。
そのような人間には、何もできない。
弘前は分かっていたのだ。
もう、誰も残ってはいないだろうと。
一度使えば、痛みに耐えられず再び飲む事を。
まさか、必死に痛みに耐えて、同じ物を作ろうと
する人間がいるとは思わなかったのだろう。
丸薬は使えば使うほどに痛みを増す。
全部使い切り、無くなる頃には痛みは命さえも危
ないほどのものになるだろう。
丸薬の効果が切れれば、それはすなわち死を意味
するのだ。
帝国にいくら問い合わせても弘前はもういない。
痛みに耐えきれず、再び投与するしか無くなるの
だった。
そのことは神崎には言っていない。
教える必要もないからだった。
「そっか……この世界で生きていくのは大変だか
らかな……」
「異世界人というだけで特別なスキルをみにつけ
ているはずだから、なんとか切り抜けているさ
それができなければ死ぬだけだよ。それでも国
では大事な英雄的存在だし大丈夫だよ」
まるで何かを知っているような口ぶりだったが、
あえてそれ以上は聞かなかった。




