第十九話 神と名乗る声
部屋に一人でいるのは、好きじゃなかった。
いつも側にいてくれるナルサスは、今はいない。
それにもし、今彼に会っても自分だとは分からな
いかもしれなかった。
「なんでだよ……どうして……」
絞り出すように声を出すと、聞き慣れた声がでる。
「戻りたい……なんでこんな……ん?」
胸の辺りに固いものがある。
まるで宝石でも嵌め込まれているようだった。
服をはだけさせると鏡を使ってまじまじとみてみ
たのだった。
「なんだろう……人間……だよな?」
そう言えばさっき弘前が変な事を言っていた気が
する。
死ぬことのない身体……?
「普通人間なら怪我もするし、寿命で死ぬのは当
たり前だろうに……」
『愚かな……今その体は死ぬ事は愚か寿命という
檻にはとらわれぬ存在だというに……』
いきなり聞こえて来た声に戸惑いを浮かべた。
頭の中に直接聞こえてくる声は何かのシステム音
声のようだった。
『聞こえているのですか?なら、話は早い…その
石を壊しなさい。さすればその身体は壊れるで
しょう』
「壊れるって……それじゃ俺も死ぬって事?」
『其方には別の身体があろう?今仮死状態になっ
ておる、そこに戻るだけじゃ』
「……」
そう言われて、素直に壊す事が出来なかった。
もし、嘘だったら?
もし……。
仮定の話しをしても意味がない。
だが、これからの事を考えると、悩む。
『信じられぬのか?私はこの世界の神に等しい
存在だ。あの者がその理を破りおったのじゃ』
「理を破る?」
『そうじゃ。彼奴は大勢の命を一つの石の込め
たのじゃ。そこに魔力そのものである、生命
の源を固形化して封じ込めた。それも何重に
もじゃ。そのせいでその石は不死をもたらす
と同時に災いの根源となっておるのじゃ』
鏡越しに見る石は真っ赤で綺麗な輝きを見せた。
これがもし命の輝きだとしたら……。
「でもっ……本当に……」
『迷う必要などない。わかりやすく言えばじゃ、
今すぐに怪我をしてみせよ!さすれば分かる
事じゃ』
「怪我って……そう言われても……」
考えつく限り周りを見回しても武器になるもの
はなかった。
さっき弘前が出ていく時に剣を持って行ってし
まったのだ。
今手に持っているものは……。
じっと手鏡を眺めると床に叩きつけた。
パリィーンッと音が響くと破片が散らばる。
その一つを掴むと手に握りしめたのだった。
痛みが走ると手の平にカケラが刺さっている。
そこから血が溢れるとカケラを抜いたのだった。
「いっ………ッ…………」
痛みは一瞬だった。
血が固まるように傷口に入っていくとみるみる
うちに傷口が塞がり、怪我が消えてしまったの
だった。
「うそ………だろ……」
『言ったであろう、あの者がやった事はこうい
う事じゃ…もう失われた命は戻らぬが、この
石の存在が消えれば不幸になる者も減るとい
う事じゃ』
「でも……また弘前くんが求めるんじゃ……」
『………それもそうじゃな……では、こうしよう
あの者は星の雫を集めておる。あれは元々は
一つの石じゃった。それを集め終わった時、
願うのじゃ。この世界から石の存在が消える
事をな。どうじゃ、やれるかの?』
「……それは俺に弘前くんと一緒に探しに行けっ
て事?」
『そうじゃな……代わりに祝福を与えよう。頼ん
だぞ』
「えっ……ちょっと……」
声は消えるとあたりは静まり返っていた。
床には割れた鏡の残骸が残っていただけだった。




