第十八話 戻りたくない自分
頭が痛い。
さっきまでギルドで依頼を探していたはずだった。
だが、そこに近づいて来た青年によって、全てが
変わった。
見知った顔に見知った声。
どれを取っても生前の神崎そのものだった。
嫌いだった自分。
どんなに嫌でも、変われない自分に嫌気がさして
いた。
もっと上手くやれたはず。
何度そう思った事か…。
家に帰ってこない母親に。出て行った父親。
結局誰も自分の事など気にかけてすらこなかった。
ナルサスやエリーゼさんに会って、初めて自分を認
められた気がした。
必要とされた気がした。
いつも気を張って生きて来たせいか、人に甘える事
をしてこなかった。
どうやって甘えていいのかさえもわからなかった。
毎晩ナルサスが心配そうにしながら自分の部屋に帰
ろうとするのを眺める事しか出来なかった。
ある時、寂しそうにする神崎の側に腰を下ろすと、
頭を撫でられた。
「一人は寂しいですか?」
「……」
何も言えなかった。
寂しい……そう言えばいいのに、言えない。
ただ、じっと見つめるとふっと笑うと抱きしめら
れたのだった。
「今日はここで寝てもいいですか?」
「……うん」
やっと言えた言葉に頷くだけだった。
その日からずっと一緒に寝るようになった。
一人じゃないのが安心するせいか、ぐっすり眠れ
た。
それからは心配そうに眺めるだけで察してくれる
ようになった。
こんな日がずっと続けばいいと思うようになって
いた。
ふと、目を覚ますと目の前には大きな姿をした
魔物がいたのだった。
「っ……」
驚くとゆっくりと退ずさる。
『主、目が覚めたか?気分はどうじゃ?』
「く……くるなっ………」
様子がおかしい事に、すぐに気づいたのだろう。
訝しむように警戒心を募らせていた。
そこにフードを被った男が入ってきた。
「おかえり、神崎くん」
「……」
聞き覚えのある声。
そしてフードを脱いで見えた姿は、懐かしい顔だ
った。
「どうして……弘前…くんが」
昔仲が良かったクラスメイトだった。
信じられないと言う顔で眺めていると、手鏡を
渡された。
意味がわからなかった。
受け取るとチラリと覗いた。
そこに映っているのは神崎自身で、それも昔の
姿の方だった。
幼い、銀髪の少年ではなく、黒髪、黒目の日本
人の姿だった。
可愛くもなく、ただ平凡な顔。
愛想よく笑えない口。
いつも気を張っていたせいでキツく見える目。
「そんな……」
愕然とする神崎に弘前は嬉しそうに話しかけて
来るのだった。
こんな事は認めたくなかった。
またこの姿なのか……。
懐かしくも、嫌いだった自分。
この世界で新しい一歩を踏み出したはずだった。
「一人にしてくれ……」
「そうか、わかった。後でゆっくり話をしよう」
弘前はそれだけ言い終わると出て行ったのだった。
後をついて魔物も出ていく。
部屋に残された神崎はどうしてこうなったのかと
頭を悩ませていたのだった。




