第十七話 ホンモノ
慌てるように宿屋へと帰り着くと、治癒の魔法を
かける。
賢者に使えない魔法などない。
そう思っていた。
いきなり倒れて意識を失くすなど、普通の状態では
ない。
何かトラブルがあったに違いない。
そう思った弘前は鑑定で病気や魔力の流れなどを確
認する為に必死だった。
結果、ただ眠ているだけという判断になった。
「一体、何が起きたって言うんだ」
ユニコーンも主の側から離れず、ただ見守っていた。
今は安静にと寝かせると、街の様子を見てくる事に
したのだった。
あの時そばにいた銀髪の少女?は神崎と同じように
倒れ込んでいた。
きっと、あっちに何かあるのだろう。
そう思うと、調べる必要があったのだった。
「少し出かけてくる。君は神崎くんのそばにいて
くれ」
『言われずともそうする……』
魔物だが、契約を交わしているせいか情が湧いて
いるのだろうか?
心配そうに眺めている。
弘前はギルドへと戻ってくると先ほどの状況を聞く
事にしたのだった。
「さっき倒れた少女の事だが、ちょっといいか?」
「先ほど…カナデ様ですね!」
「カナデ?さっきの銀髪の少女はカナデという名前
なのか?」
「はい、登録はカンザキカナデとなっています」
「……」
まさか…、死んではいなかった?
弘前の中で疑問だった事がはっきりと線で繋がって
いく。
彼の魂を拾えなかった理由。
身体が魂に引き寄せられるように近づいたのはちゃ
んと理由があったのだ。
毛髪や爪、彼の肉体を作っているものは生前生きて
いた時の一部なのだ。
魂に惹かれ合わないはずがないのだ。
そして、銀髪の少女の中に彼の魂があるとするなら
ば………。
「今は治療院へと運ばれているはずです」
「わかった、ありがとう」
嬉しそうに笑う弘前に受付嬢は気味が悪かった。
宿屋に帰るとちょうど今、目が覚めた神崎と目が
あったのだった。
「…おかえり、神崎くん」
「……」
起きていきなり魔物がいるし、帰ってきたフードの
男は嬉しそうに神崎を眺めて来たのだった。
フードを取ると、見知った顔が出て来た。
「弘前……くん?」
「あぁ、本物だな……やっと会えたよ」
「……どうして……」
そう言う神崎に鏡を手渡した。
そこに映る自分の姿に、目が離せなかった。
かつての自分の姿そのものだったからだ。
「俺……?どうして……」
「その身体は作り物だけど、死ぬことはないから
安心していいよ」
「死ぬことはないって……どう言うこと?」
「それはおいおい話すとして、どこかご飯食べに
行かない?」
そばにいた魔物もじっと神崎を眺めてくる。
どうしたらいいかわからず、首を横に振った。
「今はいいや…気分悪くて……一人にして欲しい」
「それはいけないね、では君は付いているんだ」
『わかっている』
「だから一人にしてって……こんな魔物と一緒じゃ
気が休まらないよ……」
『……』
一瞬、ユニコーンの目が見開かれたのだった。
同じ人間だったものとは思えない言葉だった。
契約は身体に刻まれたもので、解除はできない。
どちらかが死ぬまで解除できない仕様になって
いたのだった。




