第十話 言い回し
昼にいっぱい食べたせいかラナは満足そうにお昼
寝をする。
ケイヒードはその間に薪を割り、風呂釜に貯める
水を桶に入れて運んでくる。
近くに井戸はあるが、訓練も兼ねて近くを流れる
川から汲んでくるという。
その後に火の魔石で温めればすぐにお湯になる。
「ケイヒード、いつもありがとう」
「いやいや、気にしないでいいですよ。そんな細
い腕で重い荷物なんて運ばせられないですから
ね〜」
たまに、神崎が自分もやると申し出るが、すぐに
断られてしまっていた。
魔法で水を出せたらいいのに…。
バフだけでは、魔法を使っている実感がないのだ
った。
街の酒場で感じた気配は一体何だったのか?
もっと力があれば、すぐに理解する事もできたか
もしれない。
正体不明の胸騒ぎは悪い予感しかしない。
「奏?……心配ごとですか?」
「あれ、いつのまに?ナルサス、おかえり」
ナルサスが帰って来た事にも気づかなかった。
「疲れているのなら、今日はそのまま寝ますか?」
「いいよ、大丈夫。一緒にお風呂入ろっか」
ナルサスは何を心配してか急にしゃがみ込むと神崎
の背中を支えると太ももの裏に腕を入れると抱え上
げたのだった。
「ちょっ……大丈夫だって…」
恥ずかしそうに言う神崎にナルサスは何も言わず
に風呂場へと運んでくれる。
いっそ何か言ってくれた方がよかった気がする。
「今日、何かあったの?」
「それは奏でしょ?俺には言えない事ですか?」
真剣な眼差しを向けられると、さすがにこれには弱
い。
考えがまとまっているわけではないので、話すにし
ても、何を言っていいのかわからなかった。
「別に何もないよ?ちょっと……うん、ちょっと胸
騒ぎがするなってくらいで、気にするような事じ
ゃないから……」
「それのどこが気にするような事じゃないんですか
!奏の勘は当たりますよ、俺は何か起こるんじゃ
ないかと心配なんだから…」
「そんな大袈裟な……」
ナルサスはいたって真剣だった。
あまりに安易に考え過ぎていたのか。
ナルサスにとっては、大事な事なのだろう。
もし神崎に何かあれば、ナルサスは奴隷に逆戻りな
のだから、それは必死になるはずだった。
「大丈夫だって、気のせいかもしれないし?それに
俺も多少は自衛できるんだよ?」
空間を歪めるような攻撃でない限りは、神崎を攻撃
できない。
それほどまでに神崎のシールドは強力だったのだ。
それはエリーゼのお墨付きでもあった。
「それでも、用心するに越した事はない」
「そうだね、ナルサスがそばにいてくれるんだか
ら安心だと思うよ?だっていつも護ってくれる
じゃん!」
軽く言った言葉だったが、予想以上にナルサスに
は重く聞こえていたらしい。
『ナルサスが側にいてくれるから安心、いつも護
ってくれるから』
それはいわゆる、ナルサスに命を預けると言って
いるようなものだった。
そして何より、それは求婚したい相手に求める言
葉で、所謂告白と捉えられる事が多かった。
「奏……その言い方は…ちょっと…//////」
「ん?何か変な事言った?」
「無意識で言っているのだろうが…その言葉を言
うのは自分と一緒になって欲しいと言っている
ようなもので……えーっと……」
「告白みたいな形って事?」
「あぁ……」
「へぇ〜………えっ!」
何の気なしに言った言葉にそんな意味がない。
「ちょっ、たんま!そんなつもりない!だって…
ナルサスだって女性のがいいでしょ?それに俺
は別に……」
「あぁ、わかっている。だが勘違いしそうになる
からだな〜……他の人には絶対に言わないでく
れよ…」
念を押されるように言われると、コクコクと頷い
たのだった。




