第九話 嫌な予感
食事は一人より二人、二人より大人数で食べる方
が美味しいとはよく言ったものだったが、確かに
そうかもしれないと思ったのだった。
神崎はいつも一人で食事をとることが多かった。
この世界へ来てから、領主邸へ招かれてからとい
うもの周りに人がいることが多くて、多少戸惑っ
ていた事もあった。
が、みんなで一緒に食べる事に慣れるとそれなり
に温かい気持ちになるのだった。
「こうやって皆で食べると美味しいよね」
「奏、どうかしましたか?」
「いや、こうやってみんなで食事を囲むのってい
いなって思ったんだよ」
「そういえば奏は向こうの世界ではどうだったの
ですか?両親は心配していないのですか?」
「……どうだろうな……」
曖昧な返事しか出来なかった。
神崎の親は子供にさほど興味がなかった。
イジメにあっていて、ボロボロになって帰ってき
ても、何も言わなかったし、聞きもしなかった。
だから神崎も話す事もなかったのだ。
「うん、これ美味しよ。ナルサスも食べてみなよ」
明るく振る舞うことで、寂しい心を隠していた。
だから唯一仲良くなった弘前だけは守りたかった。
この世界に来て、会っていない事に不安はあった。
ちゃんと生きているのか?
しっかり食べているのか?
また虐められていないだろうか?
考えないようにしてきた事だったが、気になり出
すと余計に気になってしまう。
「康介はどうしているかなー」
「それは知り合いですか?」
「う〜ん、知り合いというか…友人かな」
「友ですか……裏切らない友だといいですね」
ナルサスにとっては友ほど信用できない者はなか
った。
結局は私利私欲の為に近づき、信用されるように
振る舞う。それが王族の世界だったからだ。
結局裏切りなどいつもある事で、さほど珍しくも
ないのだ。
だから誰も信じてこなかった。
そんなナルサスに唯一信じられる人ができたのだ
った。
それは変わった主人だった。
自分のことよりも奴隷のナルサスの心配をするよ
うな変わった人だ。
だからこそ、今の全力で彼を守りたいと思うよう
になったのだ。
「……ん?」
「どうかしたのか?」
「いや、何か……ごめん、なんでもないよ」
背中がゾワっとした感覚に嫌な胸騒ぎがしたのだ
った。
懐かしいような、そんな気配を感じた。
キョロキョロと周りを眺めても、変わり映えしな
い景色に、息を吐いた。
食事を終えて、自分たちの家に帰り着く。
領主の屋敷ほど広くはないので風呂場やキッチン
などの水回りは全部一階に集中している。
キッチンの横には、水を溜める為の桶を設置した。
もちろん大人二人程度なら入れる広さだ。
よく、ナルサスと一緒に背中を流すようになった
せいか、その癖が今も続いている。
帰ってくるとナルサスはエリーゼ達の訓練に混ざ
る。
勿論、兵士の訓練が終わった後に模擬戦のような
実践形式で訓練をつけてもらっているらしい。
帰ってきた時にはいつもボロボロだった。




