第八話 ギルドの食堂
酒場とは異世界での食堂と同じ意味を持つところ
だった。
食事だけのレストランと違ってお値段もリーズナ
ブルで、意外と美味しいのだ。
この世界では味付けが塩だけとか薄味だったのだ
が、最近では流行りの香辛料のおかげで、味のバ
リエーションも広がったと聞く。
「早く…飯」
「ラナ、しっかり座って。ケイヒードは何を食べ
る?好きなものを選んでいいよ」
「奏、奴隷にそのような…」
「いいって、いつも助けて貰ってるし。ナルサス
も好きなのを選んでいいんだよ?」
そう言うとメニュー表を見せたのだった。
早く打ちとければいいのに…。
そんな思いとは裏腹に、奴隷同士の関係はあまり
よくはなかった。
「あんまり意地張ってないで、仲良くしてよ〜」
「意地など張ってはいない」
ナルサスの言葉と態度は全く違っている。
「こっちもそうしたいんですけどねぇ〜」
「態度が悪いのはそっち…」
「ラナもこの調子ですからね〜」
どうにもラナの態度は変わらないらしい。
いつになれば改善されるのやら。
呆れるようにため息を吐くと、メニューを眺めた。
最近、ちょっとピリ辛味のメニューが増えた。
それは神崎が考案した唐辛子を使ったメニューを
追加したせいだろう。
単調で、塩味でしか辛くできなかったのが、唐辛
子を使ったおかげか酒のツマミに合うと、好評だ
ったらしい。
「すいませ〜ん。注文いいですか〜」
「はーいっ!すぐに行きます」
店員のお姉さんが来ると、神崎を見て少し驚いて
いた。
「あら、君は……」
「先日はどーも」
「君のレシピ、すっごく好評で、王都の方の店で
も出しているそうよ!」
「それはよかった。刺激がある食べ物ってお酒に
あいますよね?」
「えぇ、お酒を飲まない君が言うとなんだか不思
議な気分ね〜」
「そうですかね……」
神崎が注文を入れると、それに合わせるようにラ
ナも、食べたいものを言っていく。
少し不機嫌そうにしながらも、ナルサスとケイヒ
ードも注文を通したのだった。
「食べ終わったら、ギルドに寄って行こうか。さ
っきの魔石や討伐報酬が出てる頃だしね」
ちょうどお昼どきのせいか混雑していて、報酬の
計算が追いついていなかったのだった。
なので先に食事に行くと言って帰りに寄る事にし
たのだった。
ナルサスの容姿は誰が見ても美しく男という括り
には収まらない気がする。
それは、奴隷だった時に何度も買われたのが証明
していた。
だが彼の頑固さは筋金入りだった。
性的行為は一切せず、何度叩かれたか分からない。
今は神崎の奴隷だと分かっていても、チラチラと
見てくる人がいるのだった。
「ナルサス……えっと、居心地悪いなら……」
「平気です。俺は奏の奴隷であって、奏以外の命
令は聞きませんから」
「うん。俺もナルサスにはいつも助けて貰ってる
し、嫌がる事はしないつもりだよ。でも最近ず
っと、見られてるよね?居心地悪いならこれか
らは食事も個室にする?」
「そんな気遣いは無用です。お金がもったいない
じゃないですか」
「そうだけど…」
神崎の言葉にも、ナルサスは気にするなという。
そもそも見てくるだけの奴に何ができるのかと。
確かにそうだった。
ちょっかいをかけられたわけでもないし、ほかっ
ておけばいいのだった。




