第二十八話 初めての奴隷
ダンジョンを出てからも、ナルサスとエリーゼさんは
一言も話さなかった。
領主の屋敷へと来ると、エリーゼが振り返った。
「さぁ、ナルサスよ、納屋かその辺の芝か、どっちで
寝る?今日は別に寒くはないし外でも平気だろう?」
「えぇーー!ちょっと何言ってるの?外って……」
神崎が言うと、当たり前とばかりにエリーゼがいう。
「当たり前だろう?彼はカナデの奴隷なんだ。部屋
を当てがわれるわけがないだろう?」
「分かっています。納屋をお借りします」
「では、納屋の掃除もやっておくように……」
「分かりました。」
なんでそんな簡単に引き受けちゃうかな?
一応どっかの国の王子んなでしょ?
「ちょっと待ってよ!ナルサスは俺の奴隷なんで
しょ!だったら俺が決めるべきでしょ!」
「それもそうだな…、カナデはどうしたいんだ?」
「俺の部屋で寝てもらいます!俺が決めた事なら
それでいいんですよね?」
はっきりと言うと、ナルサスの腕を掴んでそのま
ま屋敷へと入っていく。
エリーゼは笑い出すと、今までの事はただ揶揄っ
ただけだと分かった。
「冗談だよ、カナデの奴隷といえど、外で過ごさ
せたりはしないさ」
「……」
ナルサスはじっと疑っているような目で見ていた
が、エリーゼは神崎の行動を見ていただけだった
らしい。
「もう。揶揄わないでください」
「冗談だって、君は可愛いからな〜、襲われるな
よ?いくら奴隷といえど主人が許せばなんでも
出来るからな!」
「エリーゼさん!俺、これでも男ですから!」
全く油断も隙もない。
そう言いながらナルサスを部屋に連れていく。
ベッドは大きく、二人が寝ても問題ないくらいの
大きさだった。
それに神崎の身体は幼く。
女子と見間違うほどに細い。
「じゃー、身体洗うなら先にいいよ?」
「奴隷の俺が先に入ってはダメだろ?」
「そうなの?」
「そう言うもんだ。本当に奴隷を知らないのか?」
ナルサスが呆れるように言ってくるもんだから、
胸を張って言ってやった。
「そもそも奴隷なんてそんな制度ないんだから
仕方ねーだろ」
「……いい国なんだな……」
なんだか寂しそうな表情を浮かべていた。
敗戦国と言っていたので、やっぱり戦争で滅ぼさ
れたのだろう。
「あのさ、もしよかったらだけど…故郷に帰る?」
「……なっ…一体何を言ってるんだ!俺は……」
「俺はさ、召喚されていく当てもないんだ。自分
じゃ戦えないしだからナルサスが代わりに戦っ
てくれるんだから、ナルサスのお願いも聞くべ
きでしょ?俺はさ、ナルサスの主人になりたい
んじゃない。友人になりたいんだ。」
「バカな………」
「バカでもいいじゃん。俺は俺だからさ……」
ニッと笑うと、風呂場へと向かった。
「先が嫌なら一緒に入ろっ背中流せるしそれなら
いいでしょ?」
「そうだな……」
これが初めての奴隷だった。




