第三十一話 南へ
危機を回避する為のドーピングと思えば、多少手
伝ってやらない事はないと思ったのだった。
ユニコーンと一緒に出かけると弘前に貰った鞄の
中に魔物の肝を入れていく。
これでどこまで強くなるかはわからないが、鍛え
て効果がすぐに出るわけではないので、これが一
番いい方法なのだろう。
「このくらいでいいかな〜」
『主よ、奥にまだ二匹ほどいるがどうする?』
「それで終わりにして帰ろうか?」
『心得た、すぐに狩ってこよう』
空をかけるように飛び出すと、暫くして大きな巨
体を咥えてきたのだった。
城に戻ると、早速下準備をしていた弘前に届けた。
「これでいいか?」
「もちろん。これで作れるだけ作っておくよ」
「そっか……なら早くても数日中には出ていけるな」
「もちろん。そうだね、3日は待ってて。それまで
に全部作るから」
弘前は部屋に籠ると丸薬作りに没頭したのだった。
そして完成したのが、黒光りする小瓶に詰められた
小さな飴玉の様な薬だった。
それをみんなに配ると早速飲んで試す生徒がいた。
オタクで知られている猪島健人だった。
「おぉーーー!力が溢れるぅぅぅーーーー!これな
ら無敵ですぞぉぉぉぉーーー!」
兵士との模擬戦を経て、いつもへとへとになっても
勝てなかった彼が、兵士をボコボコにのしたのだっ
た。
「こんな凄い物があるなら初めから渡して欲しいも
のですな!いっそ、元の世界にも戻れるのでは?」
「それはどうかな〜君たちがどこから来たのか知ら
ないからね〜」
深くフードを被った賢者からの贈り物に、全員が湧
き立っていた。
それを横目に、神崎は通り過ぎて行った。
今更、神崎の存在を気にする人はいない。
自分の事で精一杯の人間は、決して他人を気遣う事
などしない。
もし、気遣えるのなら獣人差別や、奴隷制度など初
めからなかっただろう。
王様との謁見ではそれはそれは、もてはやされてい
た。
「これは、賢者様。あの様な素晴らしいものを下さ
って、どのように作ったのですか?できれば手ほ
どきなど……」
「すみません、あれは僕でないと作れない品物なん
です。もし無くなったら、僕の手ずから作ってお
きましょう」
そう言うと、またすぐに戻って来るのだと思ったの
か、外出にも反対されなかった。
「さぁ、神崎くん。行こうか?」
「そうだな…」
南へ。
馬車を乗り継いで行くはずだったルイーズ領までは
王都から賢者様用の専用馬車を出してくれた。
多分だが、どこに行くのか。
今どこにいるのかを把握する為だろう。
こうして、のんびりした馬車の旅が始まったのだった。




