第二十六話 王宮でのいじめ
朝早くから訓練場に向かった神崎達は、途中で大
きな荷物を背負った青年にあった。
あきらかに身の丈以上に荷物を必死に運んでいる
のを見ると、誰もが振り向きはするが手伝う風で
もない様子だった。
ふらふらとしながらも、絶妙なバランスを取りな
がら歩いていた。
そして前からきた集団の一人がニヤニヤしながら
足を前に出したのだった。
もちろんそんな事に気づくはずもなく躓くと荷物
ごと前につんのめっていったのだった。
ふわふわの金髪をした可愛い顔の青年だった。
「おいおい、つまづいてんじゃねーよ。あぶねー
だろ?」
「すいません。前が見えなくて……」
「しっかり運べよ。そんな事しか出来ねーのろま
なんだからよっ!」
「ちげーねー」
笑いながらその場を離れる。
青年はさっきの荷物を拾い上げると再び持ち上げ
ようとしていた。
そこに神崎は駆け寄ると横の荷物をヒョイっと、
軽々と持ち上げたのだった。
「これ、どこに運べばいいの?」
「えっ…あ、すいません。あの、自分で運ぶので」
「いいよ、重いでしょ?ほら、行くよ」
「はい、これは訓練場の横の倉庫に…」
「わかった、行こうか」
「はいっ!」
弘前の目の前で神崎は青年の荷物を持ってやると
一緒に運ぶ事を提案したのだった。
こう言うことを普通にやってのける。
彼はそんな人だった。
「僕も持とうか?」
「俺は平気だが……」
「いえいえ、そんな、賢者様にまで荷物を持たせ
たとあっては、怒られてしまいます」
ぺこぺこと頭を下げるその青年は礼儀正しく、さ
っきのような悪戯にただ耐えるしかないのだろう。
「いつもこんな荷物を運んでいるの?」
「あ、はい。それが仕事なんです。毎日美味しい
ものを食べられるんですから、このくらい平気
です」
なんて健気なのだろう。
すると、離れた場所から声が聞こえてきた。
「おい!ニア!」
「あ、殿下!おはようございます」
「あぁ……ってそんな事よりも、なんでそんなで
かい荷物を運ばされてるんだ?それに……あな
たは」
「彼はニア君と言うんだね。俺は神崎奏。さっき、
ニア君に嫌がらせをしているのを目撃してね」
さっきの足で引っ掛けた人の事を話すと、トリス
ヴィアは鬼の形相でキレかけていた。
「あの野郎、ニアに怪我させようとは、いい度胸
だ」
「殿下、そんなに怒らないでください。のろまな
自分が悪いんです。転んだのだって……」
「ニア、そんな奴らにまでヘラヘラしていなくて
いいんだぞ?お前にはこのトリスヴィアがつい
ているんだからな!」
皇子が後ろ盾だからこそ、きっと虐められている
のだろう。
何せ、まだ若い彼を羨ましく思う連中にとっては、
今のニアの立場はとても高待遇だからだった。
「よし、荷物はこれだけだね。」
「ありがとうございます」
ぺこぺことするニアに、手を振ると神崎達は訓練
場を覗きに行ったのだった。




