第二十四話 全てが終わった後で
奴隷の少女は必死に逃げ回っていた。
「助けて……お兄ちゃん、たすけて……」
ずっと言い続けるが、誰にも届かない。
昼間に追いかけ回された時に、助けてくれた人間
がいた。
食事を与えてくれて、保護してくれると言ってい
た。
だが、食事を終えるとすぐに眠ってしまった。
仲間という人に連れられて来た先には、最初に会
ったゼニス皇女が待っていたのだった。
すぐに引き渡されると、訓練場へと引きずり出さ
れてしまった。
昼と違って、夜の相手は魔法師達だった。
今も手足を焼きつく様な痛みが走っている。
避けてはいても、無差別に来る攻撃に全部は避け
きれなかった。
息も荒くなり、疲れが溜まって行く。
「いやだよ……死にたくない……」
「そこだ!逃げるなぁー」
「いやぁ、助けて、お兄ちゃ……」
地面がぬかるみ、足を取られたその時、背中に焼
ける様な痛みが走った。
その場に転がると痛みからか涙が溢れ出る。
「覚悟しろよ…」
「おい、トドメは俺が」
「ちょっと、私よ!」
「じゃ〜一斉に行けばいいじゃん」
「……だな」
何かが決まったのか、その後の記憶が残る事はな
かった。
「はい、そこまで!いい訓練でしたよ。では、ご
褒美を渡すのは〜」
ゼニス皇女の声が響くと、各自部屋に戻って行く。
後には三匹の無惨な死体が転がっているだけだっ
た。
兵士には朝までに片付ける様に指示を出すと、笑顔
で戻っていった。
訓練場には誰一人いなくなる。
地面に落ちたカードを拾い集めるとまるで紙でも破
くように破り捨てたのだった。
カードは破かれるとそこに乗っていた文字も全部が
真っさらになって消え失せる。
まるでその存在そのものが消えて無くなることを意
味していた。
「さてと、片付けはこんなもんか!」
「暗くて見えねーし、いいだろ?」
「そうだな…どうせ明日も同じ様に汚れるんだし、
変わらねーだろ?」
兵士の一人が水魔法の使い手だったのか、訓練場
の床に水を撒き、血痕を洗い流したのだった。
地面に染み込むと血の跡を薄くしていく。
死体は消えているので跡形も残らない。
こうやって毎回魔物を捕まえて来ては処理してき
たのだった。
たまたま今日はそれが獣人の子供達だというだけ
で、やる事はいつもと変わりはしなかったのだっ
た。
宿舎に帰って行く兵士を見送ると、その場には
誰もおらず、静まり返っていた。
『お兄ちゃん……痛いよう……』
遠くで風がざわついていた。
「大丈夫だよ、きっと俺が守ってあげるから…」
自分の言った言葉を思い出しながら神崎は目を覚ま
した。
横に一緒にいたはずの獣人の少女の姿はどこにもな
かった。
「あれ?どこいったんだろう?」
不思議と探してみるが、見当たらない。
昨日の事を思い出そうにも、食事の後の記憶がいま
いちあやふやだった。
「ユニ、いるかな?」
『主、どうしたんじゃ?』
「昨日って、俺はいつ寝たんだっけ?この部屋で食
事を取った後って覚えてる?」
『それなら、すぐに眠ってしまったではないか。そ
れに気に食わないあの男がベッドに寝かせたぞ?』
「あの男って康介の事?」
『あの忌々しい賢者じゃ。主に触れるなど……全く』
「そっか……どうしてあんなに眠かったんだろう…」
この身体は眠ることすらいらないはずだった。
疲れ知らずなのだ。
なのに、あの夜はすごく眠かったのだった。




